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令和3年版科学技術・イノベーション白書
Society 5.0の実現に向けて

文部科学省科学技術・学術政策局企画評価課

令和2年度科学技術・イノベーション創出の振興に関する年次報告(令和3年版科学技術・イノベーション白書)が、令和3年6月8日に閣議決定され、国会に報告されました。今回の文部科学広報では、その概要について、御紹介します。

令和3年版科学技術・イノベーション白書について

科学技術・イノベーション創出の振興に関する年次報告、いわゆる科学技術・イノベーション白書は、科学技術・イノベーション基本法第11条の規定に基づき、政府が科学技術・イノベーション創出の振興に関して講じた施策に関して国会に提出する報告書です。

令和3年版の科学技術・イノベーション白書は、次のような構成となっています。

第1部 Society 5.0の実現に向けて

第1章 社会のデジタル化、脱炭素化等に向けた最先端の取組

第2章 社会課題解決に向けた総合的な「知」の創出と活用

第3章 Society 5.0実現の基盤となる基礎研究力の強化

第4章 新型コロナウイルス感染症への対応

第2部 科学技術・イノベーション創出の振興に関して講じた施策

第1部では、「Society 5.0の実現に向けて」と題し、本年3月に閣議決定された第6期科学技術・イノベーション基本計画が掲げる「Society 5.0」として我が国が目指す未来社会像や、その実現に向けた最先端の取組を、イラストやQRコードも活用しつつ、分かり易く紹介しています。具体的には、Society 5.0実現の手段である「仮想空間と現実空間の融合」を可能にする基盤技術や、安全・安心を確保する取組とともに、人文・社会科学と自然科学の融合による「総合知」によって一人ひとりの多様な幸せ(well-being)の実現を目指す取組、イノベーション創出の源泉ともなる基礎研究力の強化に向けた取組について取り上げています。また、あわせて、安全・安心を確保する観点から、新型コロナウイルス感染症への対応について、感染症と人類の歴史を俯瞰した上で、我が国が現在講じている施策等を紹介しています。

第2部では、令和2年度に政府が講じた施策を第5期科学技術基本計画に沿って報告しています。
本稿では、次節以降、主に第1部の内容を中心に、白書の概要を紹介します。

【第1部】Society5.0の実現に向けて

イノベーションの創出と人文・社会科学

インターネットの発明、スマートフォンの普及をはじめとするICTの進展は、情報や商品への瞬時のアクセスや、多様なコミュニケーションを可能にするなど、経済や社会に大きな変化をもたらしました。このように科学的な発見や発明といった創造的活動によって新たな価値を生み出し、普及させ、経済や社会の大きな変化を創出することを、科学技術・イノベーション基本法では「イノベーションの創出」と定義しています。近年、国の競争力の源はイノベーション力であることが改めて認識されています。一方、これまでの歴史で、先人が、例えば、地動説を唱え、万有引力の法則を発見し、一般相対性理論を提唱してきたように、科学者の知的好奇心に基づき、誰も足を踏み入れたことのない知のフロンティアを開拓することは、その成果が実用化に直ちに結び付くものか否かを問わず、大変重要な取組です。

また、ICT、AI、ゲノム編集技術など科学技術の急速な進展は、人間や社会の在り方に大きな影響を与えており、もはや人間や社会の在り方と科学技術・イノベーションは密接不可分の関係となっています。このため、科学技術・イノベーション政策は、まず人間や社会の望ましい未来像を描き、その未来像の下で展開していくことが必要であり、人間や社会の在り方を研究対象とする人文・社会科学の「知」と、自然科学の「知」の融合(「総合知」)が求められます。

こうした背景を踏まえ、令和2年6月、科学技術政策の基本的枠組みを定める科学技術基本法について、制定以来初の実質的な改正が行われました。「イノベーションの創出」が柱の一つに据えられるとともに、従来、法の対象とされていなかった人文・社会科学(法では「人文科学」と記載)のみに係るものが対象に加えられました。法の名称も「科学技術・イノベーション基本法」となり、本白書も、今回より「科学技術・イノベーション白書」になっています。

我が国と世界をとりまく状況

令和元年12月頃から、新型コロナウイルス感染症が世界に瞬く間に拡大しました。令和2年3月には、世界保健機関(WHO)が「パンデミック(世界的大流行)」と評価し、国境の移動制限等により、国際社会の様子は一変しました。国内でも、テレワークやオンライン教育、遠隔診療など、ICTを活用した生活様式への転換が進められています。

また、我が国では、少子高齢化・過疎化といった課題への対応も必要です。更に、地球温暖化や海洋生態系への影響といった人類共通の課題への対応も求められます。

こうした社会課題に、科学技術・イノベーションの力で立ち向かっていくため、我が国では「Society 5.0」というコンセプトを打ち出しています。科学技術・イノベーションをめぐる主要国間の争いは激化しており、基礎研究の成果を、感染症拡大、大規模自然災害への対応を含めた安全保障に活用する取組も進められています。我が国も新たな世界秩序・ルール作りにおいて主導的な役割を果たすことが求められています。

Society 5.0とは

Society 5.0とは、我が国が目指すべき未来社会として、第5期科学技術基本計画(平成28年1月閣議決定)において、我が国が提唱したコンセプトです。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く社会であり、具体的には、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」と定義しています。

蒸気機関等の発明により工業社会(Society 3.0)が形成され、ICTの進展により情報社会(Society 4.0)が形成されてきたように、「仮想空間と現実空間の融合」という手段により新たな社会を形成していこうというものです。新たな社会への移行においては、生活スタイルや産業構造まで含めた社会構造が変化することが予測されます。

Society 5.0では、ICTを活用して多種多様なビッグデータをスーパーコンピュータ等における仮想空間に集積します。この仮想空間内で、社会の様々な要素について、AIも活用して、大量のデータ処理やシミュレーションなどの高度な解析、予測・判断を行い、その結果を現実空間に反映します。この仮想空間と現実空間との循環によって、私たちの社会を、より良い「人間中心の社会」に変革していくことを目指します。

例えば、スーパーコンピュータ「富岳」では、新型コロナウイルス感染症対策として、仮想空間で飛沫の飛散シミュレーションを行い、マスクやパーテーションの使用、換気による感染リスクの低減効果を科学的に検証し、社会に提示しました。この成果は、政府、自治体、企業等における感染防止策の検討に活用されています。

Society 5.0が目指す社会
第6期科学技術・イノベーション基本計画

我が国は、科学技術創造立国の実現を目指し、平成7年に科学技術基本法を制定しました。同法の提案理由として、「目標となる先進国」から「技術導入が可能であった時代」は終焉を迎え、今後は「フロントランナーの一員として、自ら未開の科学技術分野に挑戦」する旨が説明されています。こうした問題意識の下で、同法に基づき、科学技術基本計画を5年ごとに策定してきました。

また、上述の科学技術基本法改正も踏まえ、令和3年4月より第6期科学技術・イノベーション基本計画(以下「第6期基本計画」という。)を開始しました。第6期基本計画では、我が国が目指す社会(Society 5.0)の実現こそが目的であるとしています。

新型コロナウイルス感染症のみならず、気候変動を一因とする甚大な自然災害等に対する持続可能性・強靭性の確保が、我が国にとって重大な課題となっています。また、近年、人々の価値観が、富の追求に限らない多様な幸せ、国や世界への貢献を重視するなど変わりつつあります。こうした背景を踏まえ、Society 5.0として目指す社会は、ICTの浸透によって人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるデジタルトランスフォーメーションにより、「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靱性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」であることを宣言しました。これは、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)とも軌を一にするものですが、「信頼」や「分かち合い」を重んじる我が国の伝統的価値観も重ね合わせたものです。

Society 5.0実現に必要なもの

Society 5.0実現のためには、「仮想空間と現実空間の融合」を可能とすることが前提となります。このための基盤技術となるスーパーコンピュータ、AI、量子技術などの研究開発とともに、社会全体のデジタル化の推進が必要となります。また、「国民の安全と安心を確保」するためには、地球環境の持続可能性を高めるカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けた研究開発や、防災・減災に関する研究開発等を進めていくことが必要となります。

さらに、「一人ひとりの多様な幸せ(well-being)」を実現していくためには、上記の取組とともに、自然科学の「知」と人文・社会科学の「知」が融合した総合的な「知」(「総合知」)の活用が重要です。Society 5.0という新たな社会を設計し、その社会で新たな価値創造を進めていくためには、多様な「知」が必要であり、そのような「知」を生み出す基礎研究力の強化は必要不可欠となります。

本白書の狙い

本白書は、人文・社会科学と自然科学の融合による「総合知」に力点を置きつつ、科学技術・イノベーション政策を通じて実現を目指す未来社会とそれを支える研究開発等の取組を分かりやすく説明することを狙いとしています。本白書が、Society 5.0として目指す社会についての理解の一助となることを期待しています。

【第1章】社会のデジタル化、脱炭素化等に向けた最先端の取組

本章では、Society 5.0実現の手段である「仮想空間と現実空間の融合」を可能にする最先端の基盤技術や社会実装に向けた取組を紹介しています。第1節では「仮想空間を構築するための基盤技術」として、スーパーコンピュータ、人工知能(AI)、量子技術を、第2節では「仮想空間と現実空間を結ぶ技術」として身体機能を機械が代替する技術、自動運転、ロボット作業の技術を、第3節では「脱炭素化などの安全・安心の確保に向けた取組」として、持続可能な脱炭素社会の実現に向けた政府の取組や脱炭素化を実現する革新技術、大規模災害への強靭性を占める防災・減災の取組であるAI、シュミレーション等による、地震・気象災害の予測精度の向上等の研究の状況を紹介しています。

【第2章】社会課題解決に向けた総合的な「知」の創出と活用

本章の第1節では、社会課題解決に向けた人文・社会科学の「知」と自然科学の「知」の融合である「総合知」が求められる理由や海外の動向等を概説しています。第2節では、認知症当事者や発達障害者への支援、貴重な文化財の保存と公開といった社会課題に対し、「総合知」を活用して取り組み、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)の実現を目指す具体的な事例として次の4つの事例について紹介しています。

❶ 共創的アート活動を通じた認知症当事者が暮らしやすい社会に向けた取組

❷ 医療・教育・社会現場をまたぐ発達障害者支援のための取組(評価ツールの普及)

❸ 日本社会の価値観に根差した自動運転システムの開発と社会実装に向けた取組

❹ 芸術と科学技術の融合による心の豊かさがあふれる社会に向けた取組

【第3章】Society 5.0 実現の基盤となる基礎研究力の強化

本章では、基礎研究の重要性及び我が国の研究力について概観するとともに、我が国が抱える課題と主な取組について解説しています。今世紀に入り、日本人の自然科学系のノーベル賞受賞者数は世界第2位である一方、研究力を測る指標である注目度の高い論文数については、国際的な地位の低下が続いている状況である状況等を概説しています。第2節では、このような我が国の研究力の抜本的な強化を図る新たな取組として、❶ 10兆円規模の大学ファンドの創設、❷ 博士後期課程学生の処遇を向上するための新たな取組、❸ 若手を中心とした多様な研究者の挑戦を支援する新たな取組を紹介しています。

【第4章】新型コロナウイルス感染症への対応

本章では、感染症と人類の歴史を振り返るとともに、今回の新型コロナウイルス感染症への対応状況、研究現場への影響や新型コロナウイルス感染症を踏まえた科学技術の発展の展望について概観しています。第1節では、感染症と人類の歴史とそこから学ぶ教訓を示すとともに、政府の新型コロナウイルス感染症への対応について説明しています。第2節では、研究現場への影響と研究のリモート化等の新たな研究スタイルの構築に向けた取組を紹介するとともに新型コロナウイルス感染症の正しい理解を広める取組を紹介しています。第3章では新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた科学技術の発展の展望を紹介しています。

参考

「令和3年版科学技術・イノベーション白書」
(発行:株式会社インパルスコーポレーション、定価:1,818円(税抜))

※科学技術・イノベーション白書は文部科学省のホームページからも御覧いただけます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/kagaku.htm

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