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科学技術・学術政策の推進

文部科学省 科学技術・学術政策局/研究振興局/研究開発局

はじめに

現在、我が国は、急速に進む少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、諸外国の台頭による国際競争力の相対的低下など、様々な課題に直面しています。科学技術・イノベーションは、これらの課題を解決し、我が国が将来にわたって成長と繁栄を遂げるための「要」であり、ポストコロナの新しい社会構造への転換に向け、重要性が更に増しています。

文部科学省として、引き続き新型コロナウイルス及び将来の感染症対策に貢献する研究開発を推進するとともに、令和3年度から始まる新しい科学技術・イノベーション基本計画を着実に実行し、Society 5.0の実現に向けて全力で取り組んでいます。

まず、持続的なイノベーションの創出には、その源となる学術研究・基礎研究が極めて重要であることから、科学研究費助成事業(科研費)や戦略的創造研究推進事業の充実を図るとともに、多様な研究者が挑戦的な研究に腰を据えて取り組めるよう、創発的研究支援事業等を通じた支援を強化します。また、我が国の研究力向上のため、大学ファンドの創設による世界レベルの研究基盤の構築、若手人材育成等の推進を着実に実施します。さらに、研究のデジタルトランスフォーメーションの推進に向けて、研究データの戦略的収集・共有、AI・データ駆動型研究の推進、研究施設等のリモート化・スマート化、学術情報ネットワーク(SINET)をはじめとする次世代情報インフラの整備を進め、コロナ禍でも研究を止めることなく革新的な研究成果の創出に取り組んでいます。

また、情報科学技術、我が国が強みを持つ再生医療等のライフサイエンス、量子技術、マテリアル、ナノテクノロジー等の研究開発を推進します。加えて、2050年までに脱炭素社会を実現するため、昨年末に策定されたグリーン成長戦略に基づき、再生可能エネルギーの導入にも資する気候変動予測情報の創出、次世代蓄電池をはじめとする脱炭素化技術や革新的なパワーエレクトロニクスなどの省エネ技術の実用化に向けた研究開発を推進しています。さらに、「アルテミス計画」の推進やH3ロケットの開発、北極域研究船の建造など、国主導で取り組むべき基幹技術を進めていきます。

本章では、これらを始めとした科学技術・イノベーションの創出や、幅広い分野の研究開発に向けた文部科学省における取組の全体像について紹介します。

基礎研究力強化を中心とした研究力の向上と世界最高水準の研究拠点の形成

我が国の研究力の抜本的な強化を図るためには、人材、資金、環境に関する施策を総動員する必要があります。特に、持続的なイノベーションの創出には、その源となる学術研究・基礎研究が極めて重要です。このため、若手研究者をはじめ優秀な研究者が自らの研究に打ち込めるよう切れ目のない研究費の支援を充実させるとともに、研究者がしっかりと腰を据えて、自由で挑戦的な研究に打ち込める環境を構築します。また、非連続なイノベーションを積極的に生み出す研究開発を強力かつ継続的に推進するとともに、世界水準の優れた研究拠点や基盤の創出を支援します。さらに、10兆円規模の大学ファンドを創設し、その運用益を活用することにより、世界に比肩するレベルの研究開発を行う大学に、長期的・基盤的な研究の研究基盤強化のための長期的・安定的な支援を行うこととしています。

1 世界レベルの研究基盤を構築するための大学ファンドの創設

我が国の大学の国際競争力の低下や財政基盤の脆弱ぜいじゃく化といった現状を打破し、これまでにない手法による大胆な投資を行うため、令和2年度第3次補正予算で5,000億円、令和3年度財政投融資当初計画額で4兆円を計上するとともに、第204回国会において国立研究開発法人科学技術振興機構法の一部を改正する法律が成立したことにより、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)にファンドを創設します。

本ファンドの運用益を活用して、①世界トップレベルを目指して、高いポテンシャルと明確なビジョンを有する大学や、②博士後期課程学生などの若手人材育成等に意欲的に取り組む大学の研究基盤強化を図ります。また、本ファンドの規模については、早期に10兆円規模の実現を図ってまいります。

なお、博士後期課程学生への支援の拡充については、令和2年度第3次補正予算などを活用して本ファンドに先駆けて実施することとしており、これらの取組によって、政府目標である1 5,000人規模の博士後期課程学生への経済的支援の早期実現を図ります。

2 科学研究費助成事業(科研費)

新しい知の創出と重厚な知的蓄積の形成を図るため、人文学・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を支援します。

近年、科研費においては、「科研費改革の実施方針」(平成29年1月改定)に基づき、審査システムの見直しをはじめとする抜本的な改革を進めてきましたが、令和3年度から始まる第6期科学技術・イノベーション基本計画期間においては、更なる学術研究の振興に向け、研究者のキャリアに応じた支援を行えるよう、新規採択率30%を目指すとともに、新興・融合研究や国際化を一層推進してまいります。

令和3年度には、「科研費若手支援プラン」の実行により、若手研究者への支援を継続するとともに、これらの支援を受けた優れた研究者が実力ある中堅・シニア研究者にステップアップするため、「基盤研究(A)(B)」を拡充します。

3 戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)

トップダウンで定めた戦略目標・研究領域において、大学等の研究者から提案を募り、組織・分野の枠を越えた時限的な研究体制を構築して、イノベーション指向の戦略的な基礎研究を推進するとともに、若手研究者等の挑戦的な研究の機会の創出などを実施し、有望な成果について研究を加速・深化します。

4 創発的研究の推進

我が国が将来にわたってノーベル賞級のインパクトをもたらす研究成果を創出し続けるためには、研究者がしっかりと腰を据えて、自由で挑戦的な研究に打ち込める環境を形成しつつ、多様性と融合により破壊的なイノベーションにつながる成果の創出を目指す「創発的研究」の推進が必要です。このため、文部科学省では、最長10年間にわたる柔軟で安定的な研究費の支援と、研究者を取り巻く研究環境の向上を一体的に推進する「創発的研究支援事業」を令和元年度補正予算において新設し、令和3年2月に本事業の第一期生となる研究者を公表しました。令和3年度も引き続き第二回の公募を実施するとともに、多様な研究者が、短期的な成果主義に陥ることなく、真に自由で挑戦的な研究に専念しながら相互に触発し合うための取組を進めていきます。

5 非連続なイノベーションを積極的に生み出す研究開発の推進

新しい知識やアイデアが、組織や国の競争力を大きく左右する現代においては、新しい試みに果敢に挑戦し、非連続なイノベーションを積極的に生み出す研究開発を推進していくことが重要です。

そこで、「未来社会創造事業」では、経済・社会的にインパクトが見込まれ、技術的にも挑戦的な課題を設定し、民間投資を誘発しつつ、実用化が可能かどうかを見極められる段階を目指した研究開発を実施します。

さらに、本事業では多様な研究開発活動を支える計測分析技術・機器等の開発も進めています。

また、少子高齢化の進展や大規模自然災害への備え、地球温暖化問題への対処等の課題解決のため、我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進することが重要です。

このため、「ムーンショット型研究開発制度」では、総合科学技術・イノベーション会議等において七つの野心的な目標が定められ、関係府省の連携の下で研究開発が開始されたところです。さらに、コロナ禍などの社会環境の変化を踏まえた新たな目標の検討が進められているところであり、引き続き挑戦的な研究開発を推進します。

6 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)

国際的な頭脳獲得競争が激化する中、優れた研究人材が世界中から集う、高度に国際化された研究環境と世界トップレベルの研究水準を誇る「目に見える国際頭脳循環拠点」を形成することを目指し、平成19年から14年にわたり、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)を実施しています。令和2年度は、科学技術政策の方向性の変化に対応するため、基礎研究の社会的意義の共有や次代の人材育成等を加えた、新たなミッションを策定しました。

さらに、令和3年度には、新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえ、国際頭脳循環を更に深化させることとし、この新ミッションの下で、新たに1拠点を採択することとしています。

7 研究大学強化促進事業

世界水準の優れた研究大学群を増強するため、研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーターを含む)群の確保・活用と集中的な研究環境改革の一体的な推進を支援し、我が国全体の研究力強化を図ります。

8 共同利用・共同研究体制の強化・充実

我が国では、大学の研究所や大学共同利用機関において、大型の研究設備や貴重な学術資料等を全国の研究者が共同で利用し、共同研究を行う共同利用・共同研究の体制を整備しています。こうした体制は我が国独自の仕組みであり、国際的な研究成果を生み出すなど、学術研究の発展に大きく貢献しています。文部科学省では、共同利用・共同研究体制を強化・充実し、我が国の強み・特色を活かした研究水準の向上を目指します。

(1)共同利用・共同研究拠点

文部科学省では、国公私立大学に附置される研究施設のうち、研究実績、研究水準、研究環境等の面で各研究分野の中核的な施設と認められ、全国の研究者の利用に供することで、我が国の学術研究の発展に特に有益となる研究施設を共同利用・共同研究拠点として認定しています。令和3年4月現在、全国で54大学の100拠点(国立大学73拠点、公立大学10拠点、私立大学17拠点)が認定を受けて活動しています。

さらに、平成30年度からは、国際的な共同利用・共同研究を実施する研究施設を国際共同利用・共同研究拠点として認定しています。令和3年4月現在、全国で5大学7拠点(国立大学6拠点、私立大学1拠点)を認定し、国際的な研究環境を整備するための取組を支援しています。

(2)大学共同利用機関

大学共同利用機関は、最先端の大型装置や貴重な資料・データ等を個々の大学の枠を越えて全国の研究者の利用に供し、共同研究を行う場として我が国の学術研究の発展を支えています。文部科学省では、大学共同利用機関が、当該分野の研究を先導し、我が国の基礎科学力の強化を担うとともに、今日の社会的課題の解決に貢献できるよう、その機能強化のための取組を進めています。

(3)学術研究の大型プロジェクト

文部科学省は、共同利用・共同研究体制の下、最先端の大型研究装置等により人類未踏の研究課題に挑み、世界の学術研究を先導するとともに、国内外の優れた研究者を結集し、国際的な研究拠点を形成する学術研究の大型プロジェクトを「大規模学術フロンティア促進事業」として支援しています。

●ハイパーカミオカンデ(HK)計画の推進

平成27年度の梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長のノーベル物理学賞受賞につながる研究成果を上げたスーパーカミオカンデ(SK)やその次世代計画であるハイパーカミオカンデ(HK)計画が学術研究の大型プロジェクトのひとつとして挙げられます。HKは、SKを飛躍的に上回る観測性能を備え、陽子崩壊探索などのニュートリノ研究を通じた新たな物理法則の発見や素粒子と宇宙の謎を解き明かすことを目指しており、令和元年度より建設に着手しています。

●新しいステージに向けた学術情報ネットワーク(SINET)整備

国立情報学研究所が整備するSINETは、全国950以上の大学や研究機関、海外の研究ネットワークを相互接続する、学術研究・教育活動に不可欠な学術情報基盤です。

令和元年度には、特にデータ通信量が多い東京―大阪間に世界最高水準の400Gbps回線を導入し、共同研究等の通信環境を強化しました。令和2年度には、SINET上でオープンサイエンスの推進に向けた研究データ基盤の運用を開始し、令和3年度は、北海道から九州まで400Gbpsとする次期ネットワーク基盤の整備や、研究データ基盤の強化に向けた対応も進めていきます。

科学技術イノベーション人材の育成・確保

我が国が成長を続け、新たな価値を生み出していくためには、科学技術イノベーションを担う優れた人材を育成・確保していくことが重要です。文部科学省では、若手研究者や女性研究者、研究支援人材など多様な人材の育成・確保や活躍促進を図る方策を戦略的に展開します。

特に、新たな研究領域に挑戦するような若手研究者が安定かつ自立して研究を推進できる環境を実現する取組を実施するとともに、次代の科学技術イノベーションを担う人材を継続的・体系的に育成していくために、理数系分野において優れた素質を持つ児童生徒等を発掘し、その才能を伸ばすための一貫した取組を推進します。

1 若手研究者等の育成・活躍促進

令和3年度から、博士後期課程学生の処遇向上とキャリアパスの確保を、全学的な戦略の下で一体として実施する大学に対して支援を行う「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」などの新たな施策に取り組みます。

また、優れた若手研究者が産学官の研究機関において安定かつ自立した研究環境を得て自主的・自立的な研究に専念できるよう、研究者及び研究機関を支援する「卓越研究員事業」や、世界トップクラスの研究者育成に向けたプログラムの開発を支援する「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」等を実施します。

このほか、独立行政法人日本学術振興会による「特別研究員事業」等の取組についても、引き続き推進します。

2 女性研究者の活躍促進

女性研究者の活躍促進を図るため、「特別研究員−RPD」事業や、出産・育児等のライフイベントと研究との両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダーの育成を一体的に推進するダイバーシティ実現に向けた大学等の取組を支援する「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」を実施し、女性研究者の支援の強化に取り組みます。

3 次代を担う人材の育成

将来の国際的な科学技術関係人材の育成をするために、先進的な理数系教育を実施する高校を指定する「スーパーサイエンスハイスクール」や大学等を活用して次世代の傑出した人材を育成する「グローバルサイエンスキャンパス」(高校生向け)、「ジュニアドクター育成塾」(小中学生向け)を引き続き支援します。

加えて、女子中高生が理系分野への興味・関心を高め、適切に理系進路を選択することができるよう、地域で継続的な取組を推進する「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」や、「科学の甲子園」、「科学の甲子園ジュニア」の推進、国際科学オリンピックの支援等、理数系の意欲・能力が高い生徒や学生が、科学技術に係る能力を競い、互いに研鑽する場を構築していきます。

4 技術士制度の活用促進

技術士は、技術士法に基づく名称独占の国家資格であり、国によって認められた高い技術と倫理を兼ね備えた優れた技術者です。

技術士制度のより一層の活用促進・普及拡大を図るため、資質能力向上や国際的通用性も視野に入れた制度の改正を行うとともに、関係省庁、企業等への働きかけも行っていきます。

科学技術イノベーション・システムの構築

文部科学省では、科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革や出口を明確に見据えた挑戦的な研究開発の推進に係る取組として、主に以下のような取組を実施します。

1 大学を中心としたスタートアップ・エコシステム形成の推進

イノベーション創出の原動力としてのスタートアップを含むベンチャーの重要性は以前に増して高くなってきています。諸外国の各都市では、起業する人材をはじめ、資金、周辺の企業基盤や支援機関の集積、法制度整備など、ベンチャー創出のためのシステムが形成されています。我が国でも大学等の優れた技術シーズを活用した競争力の高い大学発ベンチャーを次々と生み出していくシステムを構築していくことが重要です。

文部科学省では、ポストコロナの社会変革や社会課題解決に繋がる新規性と社会的インパクトを有する大学発ベンチャーの創出を加速させるため、(1)創業前段階から、大学への革新的技術の研究開発支援と、民間の事業化ノウハウを組み合わせて、事業育成を一体的に実施する「大学発新産業創出プログラム(START)」、(2)これまで各大学で実施してきたアントレプレナー育成に係る取組の成果を活用しつつ、人材育成プログラムへの受講生の拡大やロールモデル創出の加速に向けたプログラムの発展に取り組むことで、起業活動率の向上、アントレプレナーシップの醸成を目指す「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE−NEXT)」等の取組を推進しています。

2 本格的産学官連携によるオープンイノベーションの推進

近年、産業構造は資本集約型から知識集約型に大きく変化しようとしており、産業界において、オープンイノベーションを本格化させようとしております。こうした中で、これまでの産学官連携は大学と企業の研究開発部門との協力が主だったところ、大学・企業等のトップが関与する、本格的でパイプの太い持続的な産学官連携(本格的な産学官連携の実現)へと発展させることが不可欠になってきております。

このため、文部科学省では、本格的な産学官連携の実現に向けて、「共創の場形成支援プログラム」において、未来のあるべき社会像を描き、その達成に向けて、政策課題や大学等研究機関の強みに基づく「バックキャスト型研究開発」とそれを支える「産学共創システムの構築・持続的運営」をパッケージで推進する拠点の形成を支援しております。

また、大学内において、競争領域に重点を置いた大型共同研究を集中管理する体制(オープンイノベーション機構)の構築も支援しております。

さらに、「研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)」にて、大学等発シーズの社会実装を目指す研究開発へ、段階に応じた適時適切な支援を行っております。

3 地方創生に資するイノベーション・エコシステムの形成

地域の特性を生かした科学技術イノベーションの推進は、地域産業の高付加価値化や新産業・雇用創出、地域自身による地域社会課題の自律的な解決につながることから、極めて重要です。

文部科学省では、地域の発展ビジョンと主体性を重視した施策を通じて、地域科学技術イノベーションの創出に取り組んでまいりました。

「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」では、地域の成長に貢献しようとする地域大学等に、事業プロデュースチームを創設し、地域内外の人材や技術を取り込みながら、地域が持つ強みを生かした科学技術イノベーションを推進し、新産業・新事業の創出を図ることにより、グローバルな展開も視野に入れた日本型イノベーション・エコシステムの形成を目指しています。

また、「共創の場形成支援プログラム」において、令和3年度から「地域共創分野」を新設します。これにより、地方公共団体、大学、産業界などが連携し、地域が自律的に社会的・経済的な課題の解決を進めることができる持続的な産学官共創システムを形成し、地域の社会システムの変革に寄与することを目指します。

世界最高水準の大型研究施設の整備・利活用と研究施設・設備のリモート化・スマート化の推進

我が国や世界が直面する様々な課題の達成に科学技術が貢献していくためには、研究開発の共通基盤の強化が重要です。このため、世界に誇る最先端研究施設の整備・共用、大学・独立行政法人等が保有する研究基盤の共用・プラットフォーム化を推進します。

また、大型研究施設から研究室レベルまで、あらゆる研究現場において、リモート研究を可能とする環境の構築や、実験の自動化を実現するスマートラボ等の取組を推進し、距離や時間に縛られず研究を遂行できる革新的な研究環境の整備を推進します。

1 大型放射光施設(SPring-8)

SPring-8は、世界最高性能の放射光により、微細な物質構造や状態の解析を行う研究施設で、創薬につながるタンパク質の構造解析や高性能タイヤの開発といった成果を創出しています。安定した利用運転と産学官の幅広い利用者への共用を通じて、生命科学、環境・エネルギーから新材料開発まで広範な分野で先端的・革新的な研究開発に貢献します。

2 X線自由電子レーザー施設(SACLA)

SACLAは、放射光とレーザーの特長を併せ持った高度な光を発振し、原子レベルの超微細構造や、化学反応の動態変化の計測・分析を可能とする世界最先端の研究施設で、植物の光合成メカニズムの解明に向けた研究などが行われています。幅広い利用者へ最大限の共用を図り、世界を先導する成果の創出等に貢献します。

3 大強度陽子加速器施設(J-PARC)

J-PARCは、世界最高レベルのビーム強度を有し、中性子、ミュオン、ニュートリノ等を用いて物質・生命科学や、原子核・素粒子物理学等の多様な研究を推進する研究施設で、全固体セラミックス電池の開発といった産業利用による成果も創出しています。ビーム増強のための調整を行いつつ、国際研究拠点の形成に向けた研究環境の強化を図ります。

4 スーパーコンピュータ「富岳」

我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、令和3年3月より共用を開始した世界最高水準の汎用性のあるスーパーコンピュータ「富岳」の利用を促進し、画期的な成果の創出を目指します。

5 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)

スーパーコンピュータ「富岳」をはじめ、国内の研究機関・大学等のスーパーコンピュータを高速ネットワークでつなぎ、多様なユーザーニーズに応える計算環境を実現するHPCIを構築するとともに、この利用を推進します。

6 官民地域パートナーシップによる次世代放射光施設の推進

最先端の科学技術は、物質の「構造解析」に加えて物質の「機能理解」へと向かっており、物質の電子状態やその変化を高精度で追える高輝度の軟X線利用環境の整備が重要となっています。このため、学術・産業ともに高い利用ニーズが見込まれる次世代放射光施設(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源)について、2023年度の運転開始を目指して、施設整備を着実に進めます。

7 研究基盤の整備・共用とリモート化・スマート化の推進

全ての研究者に開かれた研究設備・機器により、産学官が共用可能な先端研究設備のプラットフォーム化、競争的研究費改革との連携等による研究機器の組織的な共用体制の確立(コアファシリティ化)を推進します。

また、研究機関等における基盤的及び先端的研究施設・設備・機器のリモート化・スマート化を図るために、幅広い研究者への共用体制を構築している研究機関において、研究者からのニーズの高い、遠隔地からの研究や研究の自動化が可能な共用研究設備・機器の導入を推進しています。

これらにより、時間や距離に縛られず研究を遂行できる新たな研究環境を各研究機関に整備し、魅力的な研究環境の実現や、研究現場の生産性向上、研究における飛躍的イノベーションの実現等を加速します。

未来社会の実現に向けた先端研究の抜本的強化

文部科学省では、「Society 5.0」という未来社会実現の鍵となる人工知能、ビッグデータ等の情報科学技術、ナノテクノロジー・材料科学技術、光・量子技術等の先端的な研究開発や戦略的な融合研究を推進しています。

また、ポストコロナ社会における研究のデジタルトランスフォーメーション(DX)の鍵となる研究データについて、それぞれの分野の特性を生かしながら、高品質な研究データの収集と、戦略性を持ったデータの共有のためのデータプラットフォームの構築に取り組み、さらに、データを効果的に活用した、先導的なAI・データ駆動型研究や人材育成を進めます。

1 情報科学技術分野における研究開発等の推進

情報科学技術は、あらゆる分野の成果創出の鍵であり、近年、人工知能をはじめとして世界中で盛んに研究開発が進められています。政府全体としては、教育改革、研究開発、社会実装等の観点からの総合的な政策パッケージとして、令和元年6月に「AI戦略 2019」、令和2年7月にAI戦略 2019 フォローアップ」が取りまとめられました。本戦略に基づく取組が、関係府省の連携の下、一体的に進められています。研究開発については、本戦略に基づき、AI関連中核センター(産業総合研究所、理化学研究所、情報通信研究機構)を中核とし、大学・公的研究機関をつなぐネットワークである、「人工知能研究開発ネットワーク」が令和元年12月に設立されました。このほか、戦略では、人工知能に関する基盤的・融合的な研究開発の推進や、研究インフラの整備・人材育成等を進めることとされています。そこで、文部科学省では、①理化学研究所「革新知能統合研究センター」において、革新的な人工知能の基盤技術等の研究開発を推進するとともに、②科学技術振興機構(JST)において、人工知能等の分野における若手研究者の独創的な発想や、挑戦的な研究課題への支援を行い、①②を「AIP:人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト」として一体的に推進しています。

平成30年度からは、「Society 5.0実現化研究拠点支援事業」として採択された大阪大学による情報科学技術を核としたSociety 5.0の実証・課題解決の先端中核拠点の形成を支援しています。

令和3年度からは、「統計エキスパート人材育成プロジェクト」を実施し、データの利活用に必要となる高度な統計学のスキルを有する統計エキスパート人材の育成及び統計人材育成エコシステムの構築を推進していきます。

2 マテリアル革新力強化に向けた研究開発の推進

マテリアルは、未来社会における新たな価値創出の鍵となり、様々な分野を支える基礎基盤技術です。

令和3年3月、統合イノベーション戦略推進会議の下に設置された有識者会議において、2030 年の社会像・産業像を見据え、Society 5.0の実現、SDGsの達成、資源・環境制約の克服、強靭な社会・産業の構築等に重要な役割を果たす「マテリアル革新力」の強化に向けた戦略案(「マテリアル革新力強化戦略案」)が取りまとめられました。

当該分野の中核的役割を果たす国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)では、新物質・新材料の創製や、幅広い社会ニーズに応える材料の高度化に向けた研究開発を行うとともに、技術移転の促進、情報発信、研究者の養成、国際的ネットワークの構築等を推進します。

さらに同機構では「革新的材料開発力強化プログラム(M−cube)」として、産業界と大学等を結ぶオープンプラットフォームの形成、世界中の人・モノ・資金が集まる国際研究拠点の構築、材料情報統合データプラットフォームなど世界最高水準の研究基盤の整備を一体的に推進することに加え、AIやロボット技術等を研究開発の現場に導入するスマートラボラトリ化を推進することにより、我が国全体の材料開発力の強化を目指します。

また、「マテリアル革新力強化戦略案」においては、データを基軸とした研究開発プラットフォームの整備とマテリアルデータの利活用促進の必要性が掲げられており、文部科学省では、NIMSの材料情報統合データプラットフォームや「ナノテクノロジープラットフォーム」の全国的な共用体制を基盤とした、産学官のマテリアルデータの戦略的な収集・共有・利活用のためのプラットフォームの整備や、マテリアル分野の重要技術領域において、社会的・産業的ニーズが高いことに加え、データサイエンスとの親和性が高く効率的な成果創出が期待される研究課題の検討・研究推進等、様々な取組を推進します。

3 量子科学技術(光・量子技術)分野における研究開発の推進

量子科学技術は、新たな価値創出の中核となる強みを有する基盤技術であり、近年、世界的な研究開発が激化しています。政府は令和2年1月、統合イノベーション戦略推進会議の下、短期的な技術開発にとどまらず、産業・イノベーションまでを念頭に置き、かつ中長期的な視点に立った新たな国家戦略として、「量子技術イノベーション戦略」を策定しました。当該戦略に基づき、令和2年度中に、国内8拠点からなる「量子技術イノベーション拠点」が本格的に発足しました。当該拠点は、量子コンピュータを構成するデバイスからソフトウェア、利活用技術の各要素や、量子暗号、量子センサなど幅広い分野の研究組織から成り、各分野における研究開発等の推進を行います。さらに、理化学研究所を中核組織として位置付け、拠点横断的な取組を行うことで、関係機関が総力を結集して基礎研究から技術実証、国際連携や人材育成に至る幅広い取組を進めるとともに、国内外の企業等から投資を呼び込むため、産学官が一体となって研究開発や量子技術の社会実装を加速することを目指しています。

文部科学省では、平成30年度から、「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q−LEAP)」を実施しています。本プログラムでは、①量子情報処理(主に量子シミュレータ・量子コンピュータ)、②量子計測・センシング、③次世代レーザーを対象とし、プログラムディレクターによるきめ細かな進捗管理によりプロトタイプによる実証を目指すFlagshipプロジェクトや、基礎基盤研究を推進します。さらに、令和2年度より新たに量子生命・量子AIのFlagshipプロジェクトを開始したほか、新領域として④人材育成プログラム領域を設置し量子技術分野の人材層強化を目的とした教育プログラムを開発しています。

令和3年度からは、ポストコロナ時代を見据え、量子技術を活用した新型コロナウイルス感染症等の発症・重症化等の計測・診断に資する技術開発及びその基盤となる技術を推進していくとともに、上記の技術を支える量子人材育成の拡充も進めます。

また、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)において、量子科学技術を一体的、総合的に推進します。さらに、生命現象の根本原理の解明を目指すとともに、医療・健康分野等に革新を起こすべく量子技術イノベーション戦略に基づき量子生命科学の研究開発拠点として先端的研究開発を進めています。

令和3年度には、量子生命科学拠点としての基盤的機能形成へ向けて知財管理体制の強化と出口戦略の構築等を行うことで量子生命技術開発とその利用促進や産学官連携を推進します。

健康・医療分野の研究開発の推進

健康長寿社会の実現と医療関連分野における産業競争力の向上に貢献することを目指し、文部科学省では、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)における、基礎から実用化までの一貫した研究開発を推進するため、iPS細胞研究等による世界最先端の医療の実現や、疾患の克服に向けた取組を強力に推進するとともに、臨床研究・治験や産業応用へとつなげる取組を実施しています。令和3年度は、従来の健康・医療分野の研究開発の推進に加え、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対策及び中長期的な視点で将来の感染症対策に貢献し得る基礎研究及びそれらを支える研究基盤を充実します。

1 感染症研究等に貢献する研究開発

〈感染症〉

●新興・再興感染症研究基盤創生事業

感染症流行地の海外研究拠点における研究の推進や、長崎大学BSL4施設を中核とした感染症研究拠点の形成により、国内外の研究基盤を強化します。また、海外研究拠点で得られる検体や病原体の情報を活用した研究や多分野融合研究を支援し、感染症の予防・診断・治療に資する基礎的研究を推進します。COVID−19についても、令和2年度AMED調整費等を活用した緊急的な研究開発を実施しています。

〈創薬支援〉

●創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業

我が国の優れた基礎研究の成果を医薬品としての実用化につなげるため、創薬等のライフサイエンス研究に資する高度な技術や施設等を共有する先端研究基盤を整備・強化して、大学・研究機関等による創薬標的探索研究や作用機序解明に向けた機能解析研究等を支援しています。さらに令和3年度においては、COVID−19の影響を踏まえ、クライオ電子顕微鏡の整備及び自動化・遠隔化による支援基盤の高度化を通じ、創薬支援を強化します。

〈ゲノム医療〉

●ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム

東北メディカル・メガバンク計画など、これまで整備してきたゲノム研究基盤を発展的に統合し、三大バイオバンクをはじめとするコホート・バイオバンクの連携を加速します。さらに、令和3年度においては、官民共同10万人全ゲノム解析の実現など、ゲノム・データ基盤を一層強化するとともに、感染症等の研究に資する、ゲノム情報に付随する臨床情報を更新するシステムを導入します。

〈橋渡し研究〉

●橋渡し研究プログラム/橋渡し研究戦略的推進プログラム

橋渡し研究支援拠点は、臨床研究中核病院と連携し、革新的医療技術創出拠点として革新的な医薬品・医療機器等の実用化を促進しています。産学連携を充実するとともに、医学・歯学・薬学系以外の先端技術・知識の利活用等による異分野融合型研究シーズの創出についても推進しています。また、令和3年度においては、感染症に係るシーズを対象として重点的な支援を実施するとともに、令和4年度からの導入に向けた橋渡し研究支援機関認定制度の公募を実施します。

〈シーズ創出〉

●革新的先端研究開発支援事業

国が定めた研究開発目標の下、革新的な医薬品や医療機器、医療技術等を創出することを目的に、組織の枠を超えた時限的な研究体制を構築し、画期的シーズの創出に向けた先端的研究開発を推進します。令和3年度においては、新興・再興感染症等に対する革新的な医薬品や医療機器、医療技術に繋がる画期的シーズを創出・育成します。

〈国際共同研究〉

●医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業

医療分野における先進・新興国、開発途上国との国際共同研究等を戦略的に推進し、最高水準の医療の提供や地球規模課題の解決に貢献することで、国際協力によるイノベーション創出や科学技術外交の強化を図ります。令和3年度においては、感染症の予防・診断・治療に寄与する国際共同研究及び研究成果の社会実装を推進します。

〈バイオリソースの整備 〉

●ナショナルバイオリソースプロジェクト

国が戦略的に整備することが重要なバイオリソースについて、体系的な収集・保存体制を整備しています。現在、「ウイルスリソース」(代表機関:長崎大学)をはじめとする31種類の質の高いバイオリソースを大学・研究機関等に提供しています。

2 重点プロジェクト等

〈再生医療〉

●再生医療実現拠点ネットワークプログラム

京都大学iPS細胞研究所を中核拠点として臨床応用を見据えた安全性・標準化に関する研究や再生医療用iPS細胞ストックの構築を行うとともに、疾患・組織別に再生医療の実現を目指す拠点を整備し、拠点間の連携体制を構築しながらiPS細胞等を用いた再生医療・創薬をいち早く実現するための研究開発を推進しています。

〈がん〉

●次世代がん医療創生研究事業

がんの生物学的な本態解明に迫る研究、がんゲノム情報など患者の臨床データに基づいた研究及びこれらの融合研究を推進することにより、画期的な治療法や診断法の実用化に向けた研究を加速し、早期段階で製薬企業等へ導出することを目指しています。

3 ライフサイエンス分野における生命倫理・安全対策

ライフサイエンス研究の推進に当たっては、生命倫理及び安全確保上の課題に配慮することが必要です。

ヒト受精胚等を用いる研究については、令和元年6月に総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)において、遺伝性・先天性疾患の病態の解明や治療方法の開発に資するためのヒト受精胚にゲノム編集技術等を用いる基礎的研究等を容認する見解が示されました。文部科学省及び厚生労働省では、その見解を踏まえた研究の適正な実施の確保を図るため、「ヒト受精胚に遺伝情報改変技術等を用いる研究に関する倫理指針」、「ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針」及び「特定胚の取扱いに関する指針」の改正に向けた検討を進めています。また、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」及び「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」について、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省において両指針間の規定の整合等に関する見直しを行い、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」として統合・制定しました。引き続き、これら研究の適正な実施の確保を図っていきます。

遺伝子組換え技術を用いる実験については、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に基づき、適切な実施を引き続き図ります。また、遺伝子組換え生物等の第二種使用等の実績及び科学的知見を踏まえ、研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の使用等が適正に行われるよう、「研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令の規定に基づき認定宿主ベクター系等を定める件」を改正し、周知を図っています。

科学技術イノベーションの戦略的国際展開

世界の知を取り込み、我が国の国際競争力の維持・強化に資するため、また、世界の研究ネットワークの主要な一角に位置付けられるとともに、国際社会における存在感を発揮するためには、科学技術の戦略的な国際展開を図ることが重要です。このため、文部科学省では、国際頭脳循環・国際共同研究の推進、国際協力による持続可能な開発目標達成のための科学技術イノベーション(STI for SDGs)の推進、グローバルに活躍する若手研究者の育成等に取り組みます。

1 国際的な共同研究の推進

国際頭脳循環への参画・研究ネットワーク構築をけん引すべく、相手国との協働による国際共同研究の共同公募を強力に推進し、我が国の国際共同研究の強化を着実に図ってまいります。具体的には「戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)」では、政府間合意に基づきイコールパートナーシップ(対等な協力関係)の下、欧米先進国との分野の擦り合わせを経た共同公募や新興国・中進国とのマルチな枠組み構築を通じた共同公募など、相手国のポテンシャル・協力分野と研究フェーズに応じた多様な国際共同研究を推進します。

また、「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」では、我が国の優れた科学技術と政府開発援助(ODA)との連携により、開発途上国のニーズに基づき、環境・エネルギー分野、生物資源分野、防災分野、感染症分野における地球規模課題の解決と将来的な社会実装につながる国際共同研究を推進します。加えて出口ステークホルダーとの連携・協働を促すスキームを活用し、SDGs達成に向け研究成果の社会実装を加速させます。

2 グローバルに活躍する若手研究者の育成等

国際的な頭脳循環の進展を踏まえ、我が国において優秀な人材を育成・確保するため、以下の取組を進めます。

優れた若手研究者に対し、海外の大学等研究機関において長期間(2年間) 研究に専念できるよう支援する「海外特別研究員事業」や、博士後期課程学生等の短期的な海外派遣を支援する「若手研究者海外挑戦プログラム」を実施します。

また、若手を中心とした外国人研究者を我が国の大学・研究機関等に招へいし、研究者間での研究協力関係を構築することを通じて我が国の学術研究の推進を図る「外国人特別研究員事業」を実施します。

さらに、海外からの優秀な科学技術イノベーション人材の獲得に資するため、アジア諸国等の青少年との科学技術交流プログラムを行う「日本・アジア青少年サイエンス交流事業」を実施します。

社会とともに創り進める科学技術イノベーション政策の推進

科学技術イノベーション政策を「社会及び公共のための政策」と位置付け、その実現に向け、科学技術コミュニケーション活動の更なる促進等、国民の理解と信頼と支持を得るための取組を展開します。また、研究開発システムの改革を強力に推進することで、科学技術イノベーション政策の実効性を大幅に高めます。

1 科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」の推進

文部科学省は、経済・社会等の状況を多面的な視点から把握・分析した上で、課題対応等に向けた有効な政策を立案する「客観的根拠(エビデンス)に基づく政策形成」の実現を目指し、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業を実施しています。

(1)基盤的研究・人材育成拠点の形成

客観的根拠に基づく政策形成を行う高度専門人材等を大学において育成します。平成25年度より5拠点・6大学において、学生を受け入れ、人材育成に取り組んでいます。また、平成26年度から政策研究大学院大学(総合拠点)に設置した「科学技術イノベーション政策研究センター(SciREXセンター)」を中心として、東京大学、一橋大学、大阪大学、京都大学及び九州大学(領域開拓拠点)との連携協力・協働の下に中核的拠点機能を整備し、エビデンスに基づく政策形成の実践のための指標、手法等の開発を行っています。

(2)データ・情報基盤の構築

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、科学技術イノベーションに関するデータや情報を体系的かつ継続的に整備・蓄積していくためのデータ・情報基盤を構築しています。令和3年度は、引き続きデータ等の整備・高度化とデータの提供・活用を行います。

2 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)

科学技術振興機構社会技術研究開発センター(RISTEX)では、環境・エネルギー、少子高齢化、防災・減災に代表されるような様々な社会課題を解決するために、自然科学だけでなく人文・社会科学の知識をも活用し、多様なステークホルダーとの共創による研究開発を実施しています。令和2年度には、科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)に対応するための方法論の創出及び人材育成、ネットワークの構築を図る新たな研究開発プログラムを開始しました。

3 研究開発戦略センター事業(安全・安心、人社ユニット創設)

科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)では、科学技術イノベーション政策の立案に貢献するため、科学技術振興とイノベーション創出の先導役となるシンクタンクとして、科学技術の最新動向の調査・分析に基づく提言を行っています。令和3年度は、災害の脅威や先端技術のリスクのほか、経済的、社会的価値の創出等の観点を研究開発戦略に盛り込むため、新たに安全・安心ユニット及び人文社会ユニットを創設します。

4 未来共創推進事業

科学技術イノベーションにより、未来の産業創造と社会変革を実現し、持続可能な未来社会を構築するためには、様々なステークホルダーによる「共創」を推進し、科学技術イノベーションと社会との関係を深化させることが重要です。

最先端の科学技術及び科学技術コミュニケーション手法に関する情報の国内外への発信と交流のための総合的な拠点である日本科学未来館では、国民と研究者等の対話・協働を促す科学コミュニケーターの養成、展示やイベントを通して先端科学技術と社会の在り方を共に考える活動と、そのための新たな表現やコミュニケーション手法の開発、研究機関や学校・科学館等との連携活動等を行います。

科学技術振興機構「科学と社会」推進部では、多様なステークホルダーによる「共創」を推進するため、日本最大級のオープンフォーラム「サイエンスアゴラ」の開催や、ありたい未来社会像や解くべき課題とソリューションを検討・創造する場の構築、SDGs達成に向けた「科学技術イノベーションを用いて社会課題を解決する地域における優れた取組」を表彰する制度、最新の科学技術動向や共創活動等の情報発信等を行います。

5 公正な研究活動の推進

研究活動における不正行為は、科学への信頼を揺るがし、その発展を妨げる行為であり、絶対に許されるものではありません。

文部科学省では、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日大臣決定)を踏まえ、研究機関における不正防止等の取組の徹底を図るとともに、独立行政法人日本学術振興会、国立研究開発法人科学技術振興機構及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構と連携し、研究機関による研究倫理教育の実施等を支援するなど、公正な研究活動を推進するための取組を引き続き行っていきます。

国民の安全・安心やフロンティアの開拓に資する課題解決型研究開発の推進

宇宙・航空分野の研究開発に関する取組

宇宙・航空分野について、文部科学省では、次の施策を推進しています。

1 基幹ロケットの運用・開発

我が国の基幹ロケットであるH−ⅡA、H−ⅡB及びイプシロンロケットは、令和2年11月のH−ⅡAロケット43号機打上げ成功により、連続50機の打上げに成功しており、98%以上の打上げ成功率(56機中55機)を達成しています。これは、我が国の宇宙技術が世界最高水準の信頼性を確立しているあかしであり、今後も着実に打上げ実績を重ねていきます。

また、我が国が自立的に宇宙活動を行う能力を維持発展させるため、令和3年度の試験機初号機の打上げを目指して、平成26年度からH3ロケット(新型基幹ロケット)の開発を進めており、現在、新型のメインエンジンであるLE−9エンジンの燃焼試験を行うなど、着実な開発を進めています。加えて、H3ロケットの開発成果を、イプシロンロケットに適用することで、H3ロケットとのシナジー効果を発揮して低コスト化等を目指すイプシロンSロケットの開発や、抜本的な低コスト化等を目指した革新的な将来宇宙輸送システムの研究開発ロードマップの検討等を進めています。

2 人工衛星等による宇宙利用の推進

平成26年5月に打ち上げられた陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS−2)は、地震や豪雨などの大規模自然災害の発生時に緊急観測を行い、災害状況の迅速な把握に役立てられています。現在、先進光学衛星(ALOS−3)(令和3年度打上げ予定)及び先進レーダ衛星(ALOS−4)(令和4年度打上げ予定)等を開発するとともに、令和2年11月に光データ中継衛星の打上げを行い、これらの衛星間の光通信の実証に向けた取組も進めています。

このほかにも、平成24年5月に打ち上げられた水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM−W)、平成26年2月に打ち上げられた米国航空宇宙局(NASA)との国際協力プロジェクトである全球降水観測計画(GPM)主衛星、平成29年12月に打ち上げられた気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM−C)及び温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT−2)等による地球観測を実施し、地球環境問題の解明等に貢献しています。今後は、「しずく」に搭載されたマイクロ波放射計(AMSR2)の後継センサ(AMSR3)と、「いぶき2号」の後継センサを搭載する温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT−GW)(令和5年度打上げ予定)等の開発を進めていきます。

また、将来の放送・通信衛星の大容量化や多チャンネル化等に対応する衛星技術を獲得するため、総務省と連携し、技術試験衛星9号機(令和5年度打上げ予定)の開発に取り組んでいます。

さらに、民間事業者や大学等が製作する超小型衛星等の宇宙空間における実証機会を提供する「革新的衛星技術実証プログラム」や、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とベンチャー企業を含む民間企業等が新たな宇宙関連事業を出口とした技術開発・実証等を行う共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ」(J−SPARC)に取り組むとともに、令和3年度からは、将来の衛星に資する挑戦的技術を、小型衛星等を活用して短期間で開発・実証する「小型技術刷新衛星研究開発プログラム」を新たに実施する予定です。また、我が国の衛星を安定的に運用するため、地上からスペースデブリ(宇宙ゴミ)等を把握する宇宙状況把握(SSA)システムの能力向上や、世界に先駆けたデブリ除去技術の獲得を目指して取組を進めています。

3 宇宙科学と天文学の研究の推進

宇宙科学については、ブラックホールや超新星爆発などの高エネルギー現象を観測するX線天文衛星等の人工衛星の開発・運用や、小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星「イトカワ」からのサンプル回収、X線・赤外線天文観測や月・惑星探査等の分野で世界トップレベルの業績を上げてきました。平成27年12月に金星周回軌道へ投入された金星探査機「あかつき」は、金星大気における「スーパーローテーション」の維持メカニズムの解明につながる成果を挙げ、平成28年12月に打ち上げたジオスペース探査衛星「あらせ」は、オーロラの発生プロセスを同定するプラズマの波の変動をとらえることに成功するなど、太陽と地球の相互作用等の理解の深化に貢献しました。平成26年12月に打ち上げられた「はやぶさ2」は、小惑星「リュウグウ」に到着後、小惑星表面への人工クレーター作成、一つの小惑星への2度の着陸成功など数々の世界初の快挙を成し遂げました。令和2年12月に地球近傍に帰還した「はやぶさ2」は、搭載するカプセルを地球に向けて分離しカプセルは豪州の砂漠地帯で回収されました。カプセル内にはリュウグウ由来のサンプルが確認され、今後詳細に分析される予定です。一方、探査機本体は、新たな小惑星の探査に向かっています(令和13年到着予定)。

このほか、欧州宇宙機関との国際協力による水星探査計画(BepiColombo)において我が国が開発を担当した水星磁気圏探査機「みお」(平成30年10月打上げ)が、水星への航行を続けています(令和7年水星到着予定)。また、我が国初となる月への無人着陸を目指す小型月着陸実証機(SLIM)やブラックホール等のX線で観測される高エネルギーの天体を観測するX線分光撮像衛星(XRISM)(共に令和4年度打上げ予定)、火星衛星からのサンプルリターンを狙う火星衛星探査計画(MMX)(令和6年度打上げ予定)の開発など、国際的な地位の確立や、人類のフロンティア拡大に資する宇宙科学分野の研究開発を推進しています。

天文学については、南米チリのアタカマ高地にて、大型電波望遠鏡「アルマ」を日米欧の国際協力で運用しており、日本はACA(アタカマコンパクトアレイ)システムやサブミリ波帯を中心とした受信機システム等の製造を担当しました。平成31年4月に国際共同研究プロジェクトより発表された、史上初となるブラックホールの撮影成功にも大きく貢献するなど、銀河・惑星系の形成過程や生命起源の謎に迫る成果を着実に挙げています。米国ハワイ島のマウナケア山頂では、大型光学赤外線望遠鏡「すばる」を用いて第2の地球候補と言われる地球型惑星候補の軌道面が恒星の自転軸と垂直であることを発見するなど、宇宙の起源と歴史の全体像の解明等に資する成果を挙げているほか、地球型系外惑星の探査等による新たな宇宙像の開拓等を目標とし、日米等の5か国共同で進めている30m光学赤外線望遠鏡(TMT:Thirty Meter Telescope)計画については、建設に向けて各国関係者間で検討が進められています。

4 宇宙国際協力の推進

我が国は、米国、欧州、カナダ、ロシアとともに国際宇宙ステーション(ISS)計画に参加しています。令和2年5月に、宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機を打ち上げ、平成21年の初号機から9号機までの全てにおいてミッションを成功させました。「こうのとり」は、最大約6トンという世界最大級の補給能力や、一度に複数の大型実験装置の搭載など「こうのとり」のみが備える機能などによりISSの利用・運用を支えてきました。現在は「こうのとり」で培った経験をかし、ISSへの輸送コストの大幅な削減や、月周回有人拠点「ゲートウェイ」への物資補給を含む様々なミッションへの応用も期待される新型宇宙ステーション補給機(HTV−X)を令和4年度の打上げを目指して開発を進めています。

また、令和2年11月に、野口聡一宇宙飛行士が米国人以外で初めて米国民間宇宙船クルードラゴン運用初号機に搭乗し、約半年間のISS長期滞在ミッションを開始しました。令和3年には、星出彰彦宇宙飛行士のクルードラゴン運用2号機への搭乗及びISS長期滞在ミッションの開始が予定されています。星出宇宙飛行士は、ISS長期滞在中に日本人2人目となるISSコマンダー(船長)を務める予定です。さらに、令和4年頃には若田光一宇宙飛行士、令和5年頃には古川聡宇宙飛行士、それぞれのISS長期滞在ミッションが予定されています。

宇宙探査の分野では、様々な国で月や火星の探査ミッションが計画されるなど、関心が高まってきています。国際宇宙探査計画「アルテミス計画」は、ゲートウェイの建設や将来の火星有人探査に向けた技術実証、月面での持続的な有人活動などを民間企業の参画を得ながら国際協力により進めていく、米国が主導する計画です。我が国は、令和元年10月にアルテミス計画への参画を決定しており、欧州及びカナダも参画を表明しています。上記決定を踏まえ、令和2年7月には、文部科学省とNASAとの間で、月探査協力に関する共同宣言に署名しました。その後、同年12月には、日本政府とNASAとの間でゲートウェイのための協力に関する了解覚書への署名が行われ、我が国がゲートウェイへの機器等を提供することや、NASAが日本人宇宙飛行士のゲートウェイ搭乗機会を複数回提供することなど、共同宣言において確認された協力内容を可能とする法的枠組みが設けられました。本了解覚書を踏まえ、文部科学省はNASAとゲートウェイに係る協力に関する実施取決めの締結に向けて調整を行っています。

また、小型月着陸実証機(SLIM)による月面へのピンポイント着陸や、インド宇宙機関との間で検討を進めている月極域探査計画(LUPEX)によって得られる月面の各種データや技術の共有などでアルテミス計画に貢献していきます。

有人宇宙活動の範囲は、ISSを含む地球低軌道から月、火星など更なる深宇宙へと広がりを見せており、国際宇宙探査は今後大きく展開することが予想されます。このような状況を踏まえ、JAXAは、令和3年秋頃に、新たな日本人宇宙飛行士の募集を開始する予定です。

アジア・太平洋地域においては、宇宙活動、利用に関する情報交換並びに多国間協力推進の場として、平成5年から毎年1回程度、同地域で最大規模の宇宙協力の枠組みであるアジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)を主催しています。令和2年11月にオンラインイベントを開催し、44か国・地域から620名の参加を得ました。当該イベントでは、令和3年秋頃にベトナムで開催予定の第27回会合へ向けて、非宇宙分野を含む産業界の参画促進の方法や持続可能な宇宙活動及び宇宙技術の社会課題への貢献に向けた取組などについての議論が交わされました。

5 航空科学技術に関する研究開発

令和元年10月に科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 航空科学技術委員会において「航空科学技術分野に関する研究開発ビジョン」の中間取りまとめが行われました。航空輸送に対する社会要求が高まる中で、あるべき未来社会像を見据えつつ、我が国の航空機産業を下支えするため、技術的優位性を考慮しながら、ハイリスクな先進的技術や短期間で成果の出にくい基盤技術の研究開発を戦略的に実施するとともに、企業単独では保有の難しい大型試験設備の整備等を進めることとしています。

これを踏まえ、脱炭素社会の早期実現に貢献する航空機の超低燃費化技術(抵抗低減及び軽量化技術)や電動推進化技術の研究開発、新たな市場開拓に向けた静粛超音速旅客機の統合設計技術の実証活動などを推進しています。また、燃費と環境負荷性能を大幅に改善するコアエンジン技術(燃焼器、タービン等)の研究開発に取り組むとともに、令和2年度より技術実証用国産エンジン(F7エンジン)の運用を開始し、次世代航空機用エンジン技術の実証試験も進めています。

このように、文部科学省では航空機産業の発展のため、関係府省と一丸となって、航空科学技術の研究開発を進めていきます。

海洋・極域分野の研究開発に関する取組

四方を海に囲まれた我が国にとって、海洋科学技術は、産業競争力の強化や経済・社会課題への対応に加えて、我が国の基盤を確固たるものにする、国家戦略上重要な科学技術です。文部科学省では、海洋の調査研究を進め、気候変動、鉱物・生物等の海洋資源の確保や、防災・減災等に資する技術開発を推進し、我が国の経済社会の発展及び国民生活の安全・安心の確保に貢献することを目指しています。また、Society 5.0の実現や将来のイノベーションの創出に向けた、未来の新産業創造へ寄与する研究開発を推進しています。

1 地球環境の状況把握と変動予測

近年、北極域の海氷の減少をはじめとする世界的な海水温の上昇や、海洋酸性化の進行、プラスチックごみによる海洋の汚染等、海洋環境が急速に変化しています。変わりゆく海洋・地球環境の現状を把握し、その変動のメカニズムを理解することは、海洋や海洋資源の持続可能な利活用の推進、地球環境の正確な将来予測に不可欠です。このため、漂流フロート、係留ブイ、船舶による観測等を行い、海洋環境変化に係るデータを取得するとともに、国際連携によるグローバルな海洋観測網や諸外国のデータを活用することにより、地球環境の状況把握と変動予測に資する研究開発を推進します。

また、多くの海洋研究者や大学院生に利用されている海洋研究開発機構(JAMSTEC)所有の学術研究船「白鳳丸」を中心に、観測研究のための環境整備と人材育成にも取り組みます。

 海洋由来の自然災害への防災・減災

自然災害に対して強じんな社会の構築に向けて、海底広域研究船「かいめい」等を活用しつつ関係機関との連携を図り、海底地殻変動を連続かつリアルタイムに観測するシステムを開発・整備するとともに、海底震源断層の広域かつ高精度な調査や、海域火山の観測・調査のための技術開発を実施します。また、調査・観測の結果を取り入れ、地殻変動の予測や津波シミュレーションの高精度化に取り組みます。

3 海洋情報・資源の利用

海洋に関連する多様な情報を集約・共有する「海洋状況把握(MDA)」は我が国の重要政策の一つです。研究機関や大学等が有する高度な技術や知見を幅広く活用し、海洋生態系や海洋環境等の海洋情報をより効率的かつ高精度に把握する革新的な観測・計測技術の開発を推進します。

また、食糧生産や気候調整等で人間社会と密接に関わっている海洋生態系は、近年、汚染・温暖化・乱獲等のストレスにさらされており、その持続可能性の確保が地球規模で喫緊の課題となっています。このような状況を踏まえ、海洋生態系の理解・保全・利用のため、海洋ビッグデータを活用する技術・手法の高度化を図ります。

4 北極域研究の戦略的推進

北極域は、海氷の急激な減少をはじめ地球温暖化の影響が最も顕著に現れている地域です。北極域の環境変動は単に北極圏国の問題にとどまらず、台風や豪雪等の異常気象の発生など、我が国を含めた非北極圏国にも影響を与える全球的な課題となっています。しかしながら、北極域は観測データの空白域となっており、その環境変動のメカニズムに関する科学的知見は不十分です。その一方で、北極域における海氷の減少により、北極海航路の活用など、北極域の利活用の機運が高まっているほか、北極域に関する国際的なルール作りに関する議論が活発に行われており、社会実装を見据えた科学的知見の充実・研究基盤の強化が必要となっています。

そこで、我が国の強みである科学技術を生かして北極域の科学的データの蓄積に貢献するため、令和3年度より、砕氷機能を有する北極域研究船の建造に着手します(令和8年度就航予定)。本船は北極域の国際研究プラットフォームとして運用し、国際観測網の強化に貢献します。加えて、北極研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)を通じて拠点を整備し、北極域の課題解決に向けた先進的な観測や社会への影響評価等を実施するとともに、若手研究者の海外研究機関への派遣・招へい等による人材育成にも引き続き取り組みます。

また、本年5月には、第3回北極科学大臣会合(ASM3)をアイスランドと共催により、東京で開催します。本会合は、北極における研究観測や社会的課題への対応の推進、関係国や北極圏国に居住の先住民団体との科学協力の推進を目的とするもので、初めてアジアで開催されることになります。北極における国際的観測体制の構築に向けて主導的な役割を果たし、北極をめぐる日本の国際的プレゼンスの向上を図ります。

5 南極地域観測事業

南極地域観測に関しては、南極地域観測第Ⅸ期6か年計画に基づき、南極観測船「しらせ」による輸送支援の下、地球環境変動の解明に向け、地球の諸現象に関する多様な研究・観測を推進します。上空のオゾン量や温室効果ガスについて、60年以上にわたり観測を継続しており、その成果は、地球規模の気候変動解明にも大きく貢献するものとなっています。現在は、昨年11月に出発した第62次観測隊(越冬隊)が南極の昭和基地で活動しており、本年11月頃には第63次観測隊が南極に向けて出発する予定です。

自然災害に対する強靭な社会に向けた研究開発の推進

我が国の国土は、地震・津波・火山、台風等の自然災害が多く発生する自然条件下にあります。

自然災害にはいまだに解明されていない部分が多く、大きな被害をもたらします。自然災害を正確に把握し、予測するための調査研究を進めるとともに、被害軽減を図るための研究開発を進め、防災・減災対策に活かしていくことが重要です。

このため、文部科学省では、地震・津波・火山等の調査観測・研究や、耐震技術開発などの防災に関する取組を実施しています。

1 地震及び火山分野の調査研究の推進

(1)地震調査研究推進本部の取組 

平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災の経験を活かし、地震に関する調査研究の成果を社会に伝え、政府として一元的に推進するため、地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣(以下「地震本部」という。))が設置されました。

地震本部では、これまでに、関係行政機関、大学等との連携協力の下、陸域の活断層の地域評価、海溝型地震の長期評価、津波評価、地震動予測地図の作成、緊急地震速報の実用化等の成果を得てきたところです。

令和3年度も引き続き、活断層等の長期評価や強震動評価、津波評価等の検討を進めるとともに、地震防災対策等への貢献を目指し、一層の成果普及を図ります。

(参考)地震本部による地震に関する評価
https://www.jishin.go.jp/evaluation/

(2)海底地震・津波観測網の構築・運用 

①南海トラフ海底地震津波観測網(N−net)の構築

南海トラフ地震の想定震源のうち、まだ観測網を設置していない高知県沖~日向灘の海域に、南海トラフ海底地震津波観測網(N−net)の構築を進めます。

②日本海溝海底地震津波観測網(S−net)及び地震・津波観測監視システム(DONET)の運用

地震・津波の発生メカニズムの解明や、地震・津波の早期検知による警報の高度化を目的として、防災科学技術研究所において、日本海溝沿いに整備した日本海溝海底地震津波観測網(S−net)と和歌山県沖から高知県沖に整備した地震・津波観測監視システム(DONET)を運用しています。これら海域の観測網に加え、陸域の地震観測網、火山観測網とを合わせ、全国の陸域から海域までを網羅する「陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)」として統合運用を行っています。

(3)重点的な地震防災研究や防災力向上のための研究

① 首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト

首都直下地震等への防災力を向上するため、官民連携超高密度地震観測システムを構築し、 非構造部材を含む構造物の崩壊余裕度に関するセンサー情報や、個人の防災行動等に資するビッグデータを収集・整備して、首都直下地震等への防災力を向上する方策の研究をすすめます。

② 防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト

南海トラフ沿いでマグニチュード8クラスの大地震が発生し、残りの領域において大地震が発生する可能性が高まるなどの「異常な現象」が起こった際に、その後の地震活動の推移を、科学的・定量的データを用いて評価する手法の開発を行います。また、こうした「異常な現象」が観測された場合の住民・企業等の防災対策の在り方や、防災対応を実行するに当たっての仕組みについて研究を実施します。令和3年度は、科学的な手法に基づいて自然現象や社会状況を把握できるように、津波堆積物等の基礎調査を実施し、その結果に基づいたモデルの構築やシミュレーション手法の検討をします。

③ 情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト

これまで蓄積されてきたばくだいな地震計データ等をもとに、IoT、AI、ビッグデータといった情報科学分野の科学技術を活用した調査研究等を行い、従来の地震調査研究に新たな視点を展開することを目指します。

(4)火山観測研究の推進及び人材の育成

①次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト

平成26年9月の御嶽山の噴火を踏まえて、我が国の火山研究を飛躍させるため、従前の観測研究に加え、他分野との連携・融合のもと、「観測・予測・対策」の一体的な火山研究の推進及び広範な知識と高度な技能を有する火山研究者の育成を目指します。

②火山機動観測実証研究事業

噴火発生や前兆現象発現などの緊急時等に、人員や観測機器を当該火山に集中させた迅速かつ効率的な機動観測を実現するために必要な体制構築を実施します。

2 防災科学技術の研究開発の推進

(1)災害をリアルタイムで観測・予測するための研究開発

地震・津波・火山災害を観測する技術や予測する手法の研究開発等を推進します。

特に、海と陸の地震・津波・火山の観測網を統合した陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)により得られたデータを用いた地震動・津波の即時予測技術の開発を行います。さらに、リモートセンシング技術等による多項目の火山観測データを活用し、多様な火山現象のメカニズムの解明や火山災害を軽減するための研究開発を進めます。

(2)社会基盤の強靭性の向上を目指した研究開発

地震発生時の社会基盤の強靱性の向上と事業継続能力の強化を目指し、実大三次元震動破壊実験施設(E−ディフェンス)等を活用した耐震技術開発とシミュレーション技術の高度化を行います。

具体的には、将来起こりうる巨大地震に対し、構造物の耐震性能評価、応答制御、機能維持技術等の地震減災に資する耐震技術研究を実施します。さらに、E−ディフェンスで実施した実験を解析するシミュレーション技術の耐震性能評価への活用に向け、シミュレーション技術の高度化・効率化、利便性向上等に関する研究開発を行います。

(3)災害リスクの低減に向けた基盤的研究開発

自然災害の軽減のために、個人や自治体、国が、それぞれ自らの「防災」を計画・実行することができるよう、地震災害をはじめ各種災害に関する危険性の評価と、これらを含めた各種災害リスク情報の利活用に関する研究を行います。

特に、津波ハザードマップや、低頻度巨大地震を考慮した地震動ハザードマップの作成手法に関する研究、ゲリラ豪雨を観測し予測する手法の開発、雪氷災害の危険度予測等の防災に資する研究を行います。

クリーンで経済的な環境エネルギーシステムの実現

2015年の「パリ協定」において国際的な合意がなされた気候変動問題が注目される中、令和2年10月に2050年までのカーボンニュートラルの実現という目標が新たに掲げられました。経済成長との両立を図りながら脱炭素化を実現するためには、革新的技術が不可欠であり、令和2年12月には、脱炭素化に向けた革新的技術を着実に社会実装するための「グリーン成長戦略」が策定されました。

こうした中、文部科学省では、環境エネルギー分野における技術革新を支えるため、従来の延長線上にはない技術の創出など基礎・基盤的研究を推進しています。

1 革新的パワーエレクトロニクスや次世代蓄電池に係る研究開発の推進

窒化ガリウム等を活用した次世代の半導体や蓄電池に係る研究開発は、我が国が強みを有する分野の一つです。超省エネ・高性能なパワーエレクトロニクス機器の創出を実現するため、次世代半導体を利用したパワーデバイスから回路システム、またその回路動作に対応できる受動素子等に係る研究開発を一体的に推進する事業を開始しました。

また、再生エネルギー主力電源化を支える蓄電池技術の産業力強化と更なる市場獲得を図るため、新しい蓄電池材料と技術の開発から、電池特性の基礎的な課題の解決、さらには社会実装までシームレスに取り組める産学連携拠点等の支援を推進しています。

2 環境エネルギー分野における革新的な技術シーズ創出の推進

右記に加え、カーボンリサイクル技術等の抜本的な温室効果ガス削減に向けた従来技術の延長線にない革新的エネルギー科学技術の研究開発を幅広く推進しています。

また、理化学研究所において、個々の構成要素の単なる集合としては予測不可能な驚くべき新しい物性や機能を生み出す創発物性科学分野の研究や、環境負荷の少ないモノづくりを理念とし、植物科学やケミカルバイオロジー等の異分野融合研究に加えてAI等の最先端技術を取り入れた新機軸の研究を推進しています。

3 ITER計画及びBA活動等の核融合研究開発の実施

エネルギー問題と環境問題を根本的に解決するものと期待される核融合エネルギーの実現に向け、国際約束に基づき、核融合実験炉の建設・運転を通じて科学的・技術的実現可能性の確立を目指すITER計画及び発電実証に向けた先進的研究開発を日欧協力の下、国内で行う幅広いアプローチ(BA)活動を計画的かつ着実に実施するとともに、核融合科学研究所における大型ヘリカル装置(LHD)計画をはじめとする大学等における学術研究も進めています。

令和2年にはITERの組立てが開始されましたが、令和3年度にはBA活動において量子科学技術研究開発機構那珂核融合研究所に整備された世界最大となる核融合実験装置JT−60SAの調整を進め、核融合研究開発の一層の進展を目指します。

4 地球環境問題への対応に必要な基盤情報の創出

気候モデル等の開発を通じて、気候変動の予測技術等の高度化や気候変動メカニズムの解明に取り組むとともに、防災等の気候変動適応策立案に必要な気候変動予測情報を創出するための研究開発を推進しています。

加えて、地球環境ビッグデータ(観測・予測情報等)を蓄積・統合解析し、気候変動等の地球規模課題の解決に資する情報基盤である「データ統合・解析システム(DIAS)」については、これまでの強みを生かしてデータ利活用を更に拡大・展開するとともに、気候変動等の社会的課題の解決に貢献する地球環境データ統合・解析プラットフォーム(ハブ)として、研究開発等を推進しています。

さらに、我が国が主導的な役割を果たしている地球観測に関する政府間会合(GEO)等の国際的な枠組みにおいて研究成果を発信するとともに、気候変動を含む地球環境研究の世界規模のイニシアティブであるフューチャー・アース構想等により国内外のステークホルダーとの協働による研究を推進しています。

5 大学と地域が連携した、地域の脱炭素化加速のための知見創出

カーボンニュートラルの実現に向けて、技術革新のみならず、地域の社会変革を促すため、人文社会科学の知見も活用し、地域の脱炭素化に係る取組を支えるための基盤的な知見を創出するとともに、関係省庁と連携し、その成果の展開や大学と地域との連携推進の場の構築に取り組みます。

原子力分野の研究開発・人材育成に関する取組

東京電力福島第一原子力発電所(以下、「東電福島第一原発」という。)事故等を踏まえ、政府は、エネルギー基本計画(平成30年7月3日閣議決定)を策定しました。

これを踏まえ、文部科学省としては、原子力分野の研究開発・人材育成等の取組や原子力災害からの復興に関する廃炉や除染等に向けた研究開発(※詳細は「東日本大震災からの早期の復興再生」を参照)等について、責任を持って対応していきます。以下、具体的な取組を示します。

1 原子力の安全性の向上に向けた研究

試験研究炉等を活用し、軽水炉を含めた原子力施設の安全性向上に必要となる、シビアアクシデントへの進展防止・影響緩和に係る知見の取得や、安全評価手法の整備等を実施します。

2 原子力の基礎基盤研究とそれを支える人材育成

原子力特有の科学技術基盤を維持・強化するための基礎的データの取得や、バックエンドの負担軽減等につながる革新的な技術創出を目指した基礎基盤研究を実施するとともに、大学や産業界との連携を通じた次代の原子力を担う人材の育成を着実に実施します。そのため、①将来的に高速増殖原型炉もんじゅ(廃止措置中)のサイト内に設置する中性子ビーム利用を主目的とした試験研究炉の概念設計、②多様な研究開発に活用される試験研究炉JRR−3等の研究基盤の供用促進、③水素製造など多様な熱の産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉についての研究開発の推進等に取り組んでいます。

3 高速増殖炉サイクル技術

高速増殖原型炉もんじゅについては、廃止措置計画(平成30年3月原子力規制委員会認可)に基づき、原子力機構において廃止措置に取り組んでいます。まずは、安全確保を最優先に令和4年末までに炉心から燃料池までの燃料体取出し作業を終了することとしています。平成30年8月からは燃料体の炉外燃料貯蔵槽から燃料池への移送を開始し、令和元年9月からは燃料体の炉心から炉外燃料貯蔵槽への移送を開始しました。今後も「もんじゅ」の廃止措置については、立地地域の声に向き合いつつ、安全、着実かつ計画的に進めていきます。

また、「もんじゅ」の研究開発で得られた知見を活かし、高速炉開発における研究開発基盤の維持・発展に取り組んでいます。

4 国際的な核不拡散体制強化に向けた取組

我が国は、原子力平和利用のための世界で最も優れた経験や技術等を有しています。引き続き、その経験や技術を活かして国際原子力機関(IAEA)等と協力し、国際的な核不拡散・核セキュリティ体制の強化に積極的に貢献していきます。

具体的には、原子力機構核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)を通じ、引き続きアジア諸国等に対し核不拡散・核セキュリティ強化のための人材育成を行うとともに、核物質の高度な測定・検知及び核鑑識の技術開発を行います。

5 放射性廃棄物の処理・処分に関する取組

研究機関、大学、医療機関等から発生する放射性廃棄物の処理・処分に関する取組等を着実に行います。また、高速炉や加速器を用いた放射性廃棄物の減容化・有害度低減技術に関する研究開発を実施します。

6 地域との共生・国民の理解のための取組

立地地域をはじめとする国民の理解と共生のための取組を実施します。地域の持続的発展に向けた取組に対し支援するとともに、原子力研究開発施設に関する知識の普及を図る取組等を行います。

東日本大震災からの早期の復興再生

東電福島第一原発の安全かつ確実な廃止措置を実施するため、文部科学省では、平成26年6月に公表した「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等研究開発の加速プラン」に基づき、国内外の英知を結集し、基礎・基盤的な研究開発や人材育成の取組を推進しています。また、原子力災害からの復興を加速させるため、福島の環境回復に向けた取組を推進しています。

あわせて、被災者の迅速な救済に向けた原子力損害賠償の円滑化等に関する取組を実施していきます。

1 廃止措置に向けた研究開発及び人材育成

原子力機構廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)において、福島県双葉郡富岡町に整備した「国際共同研究棟」を活用しつつ、燃料デブリの取扱いや放射性廃棄物の処理・処分、炉心内部における事故の経過の解明等の基礎・基盤的な研究を実施しています。さらに、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」により、CLADSを中核として原子力分野だけでなく様々な分野の優れた知見や経験を、大学や研究機関、企業等の組織の垣根を超えて緊密に融合・連携させることにより、中長期的な廃炉現場のニーズに対応する研究開発及び人材育成の取組を推進しています。

2 環境回復に関する研究開発

東電福島第一原発事故由来の放射性物質によって汚染された環境の回復に向けて、原子力機構が福島県や国立環境研究所とともに、精度の高い放射線測定に関する技術開発や、河川を含む環境中での放射性物質の動態に関する研究等を実施しています。

3 原子力損害賠償の円滑化

東京電力福島原子力発電所事故から10年が経過している中で、被害を受けた方々が一日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう、引き続き迅速・公平・適正な救済が必要です。

文部科学省では、原子力損害賠償紛争審査会において、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示した指針を策定するとともに、賠償状況のフォローアップを行っております。また、原子力損害の賠償が未請求の被災者の方々が、早期に賠償を御請求いただけるように関係機関と連携しながら取組を進めております。さらに、「原子力損害賠償紛争解決センター」において東京電力と被害者との和解の仲介を実施しております。

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