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なぜ今「北極域研究」なのか
北極域研究の重要性と日本の取組

文部科学省研究開発局海洋地球課

一般にはあまり知られていませんが、昨今、北極域研究の取組が世界で加速しています。今回は、なぜ今北極域研究が重要なのか、北極と日本との関わりや、日本としての取組について、紹介します。

北極の現状について
昨年、菅内閣総理大臣が2050年カーボンニュートラル宣言をしたことで、「地球温暖化」が改めて注目されていますが、温暖化が進行していくことで、北極の氷が減少しているということは、御存じの方も多いのではないでしょうか。実は、2030年代には、夏の北極から氷がなくなってしまうとのシミュレーション結果も発表されています。
では、北極はただ地球全体の温暖化の被害を受けているということなのでしょうか。実は、ことはそう単純ではありません。まず紹介したいのが、北極の温暖化は、地球全体で進行している温暖化に比べて、そのスピードが極端に速いということです。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のレポートによれば、北極の温暖化は地球全体の2~3倍程度のスピードで進んでいると言われています。これは、
・北極の氷が夏~秋に減少し、海洋表面が露出することで、これまで氷によって反射されていた熱を北極海が吸収するようになり、秋~冬にかけてその熱が放射され、北極全体の平均気温を押し上げていること
・工業や森林火災により発生するブラックカーボン粒子(エアロゾルの一種)が北極に運ばれ、太陽の熱を吸収し、雪や氷の融解を進めること
などが原因としてあげられます。また今後は、北極の永久凍土が融解することで温室効果ガスであるメタンガスが排出され、北極の温暖化を更に早めていくことなども指摘されています。
極めて速いスピードで進む北極の温暖化は、地球全体の温暖化を更に推し進めるとも言われており、北極域の問題に留まらず、世界全体の課題であることから、日本も含めた各国が北極の観測・研究に取り組んでいます。

日本と北極の関わり
北極域研究の重要性について説明しましたが、では、「なぜ日本が取り組む必要があるのか」ということに疑問を持たれるかもしれません。もちろん、先進国として、温暖化という地球規模課題に率先して取り組んでいく必要があるということも理由の一つですが、実は、日本と北極には深い関わりがあります。それは、北極の気象や気候変動が、日本の気象に深く影響しているということです。
例えば、北極の気象データは、日本に接近する台風の進路の予測に影響すると言われています。北極の気象データを適切に取得することで、日本の北側の気圧配置がどのように台風へ影響するのかなどを、より正確に把握できるようになります。その結果、日本に接近する台風がどのような進路をたどるのか、より詳細に予測できるということが示されています。
また、北極の温暖化は日本の冬の「豪雪」にも影響すると言われています。「温暖化なのに豪雪?」という疑問を持たれるかもしれませんが、北極の温暖化により海氷が減少し、海洋表面の露出度が高まることで、大気循環に変化が生じます。これが、北極周辺から日本に流れ込む寒気団の勢力拡大を引き起こし、日本に寒冬・豪雪をもたらすことが指摘されています。
さらに、海氷の減少による「北極海航路」にも注目が集まっています。北極域研究は、国民の安全・安心をはじめ様々な分野での貢献が期待されることから、日本は北極域研究に力を入れているのです。

北極域研究における課題
ここまで、北極域研究を進めていくことの重要性を、日本との関係性も含めて説明してきましたが、ではその研究が順調に進んでいるのかというと、そうではありません。北極域研究を進めていく上で最大の課題は、北極が「観測データの空白域」であることです(図1参照)。
北極における温暖化のメカニズムや、日本への影響を解明していくためには、北極の現状を深く適切に理解するための「データ」が重要になります。しかし、北極は厚い氷に閉ざされており、その氷も海洋に浮いているため日々動いていることから、図に示したとおり、船舶や観測機器によるデータの収集がなかなか進んでいないのが現状です。
これは、北極における「予測の不確実性」にもつながります。冒頭で、2030年代には夏の北極から氷がなくなってしまうというシミュレーション結果を紹介しましたが、データが少なく、予測が不確実であるため、2050年代になくなる、22世紀までなくならないなど、様々なシミュレーション結果が存在しています。これは、北極の温暖化が今後どの程度進むのか、日本や世界にどのように影響していくのかも不確実であることを意味しています。
先述した各種シミュレーション結果や研究成果も、数少ないデータを活用して導いたものであり、観測データが充実すれば、より多くの事実を解明することができるはずです。しなしながら、北極が、日本、そして世界に影響していくことが分かっていながら、その環境の厳しさゆえに観測を進められていないということが現状なのです。

日本の取組について
観測データの空白域であるという課題がある中で、日本が北極域研究にどのように取り組んでいるのかについて紹介します。
日本は、1950年代から雪氷、大気、海氷、陸域など、北極域の全般において観測・研究に取り組んできました。地道に、継続的に取り組んできた日本の成果は、信頼あるものとして世界からも注目されています。令和2年度からは、「北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)」(令和3年度予算案:10億円)に取り組んでおり、継続的な観測・研究を続けています。
こうした取組に加えて、今回は最新の取組を二つ紹介します。

北極域研究船の建造について
文部科学省は、砕氷機能を有し、北極海海氷域でも観測が可能な、北極域研究船(図2参照)の建造のための経費を、令和3年度予算に計上しました。北極の観測がなかなか進まない要因の一つは、北極が氷に閉ざされていることから、船舶で中心部まで入っていくことが難しいということでした。本船は氷を砕きながら航行可能であることから、北極域の中心部まで進んで観測を実施することができます。加えて同船は、高精度・多項目な観測機能を有していることから、これまで見えてこなかった北極の今を、より詳細に把握可能となることが期待されています。
本船は、今年から建造に着手し、令和8年頃に完成予定です。日本としては、本船を国際連携のプラットフォームとして活用し、世界各国と連携しながら、北極の観測・研究を進めたいと考えています。

第3回北極科学大臣会合の開催
今年5月、北極科学大臣会合(ASM3)が、アジアでは初となる日本で開催されます。本会合は、北極域研究に取り組む国々や北極に住む先住民の方々との連携を進めていくため、2016年にアメリカの呼びかけでスタートしたものです。
第3回のテーマは「持続可能な北極のための知識」です。会合の最後には共同声明を取りまとめる予定ですので、共催国であるアイスランドとともに議論を主導し、北極における国際的な観測網の構築をはじめ、先住民団体や非北極圏国との連携、北極域研究の人材育成などを推進し、北極域研究を更に加速していきます。

最後に
今回この記事を読んで、「北極の現状について初めて知った」「北極の温暖化が速いなんて知らなかった」などの感想を持たれたかもしれません。今後も様々な場面で情報発信をしていきますので、是非「北極域研究」に注目ください。

(参考①)これまでの日本の研究成果
GRENE事業北極気候変動プロジェクト
(2011年~2016年)
北極域研究推進プロジェクト(ArCS)
(2015年~2020年)
(参考②)現在進行中のプロジェクト
北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)
(2020年~2025年)
(参考③)北極科学大臣会合(ASM3)について
文部科学省ホームページ
ASM3ホームページ(英語)

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