読み上げる

南極地域観測の今
今次隊の実施状況及び近年の観測・研究成果

文部科学省研究開発局海洋地球課

新型コロナウイルス感染症の状況の中、南極地域観測隊が2月22日に帰国しました。今次隊の実施状況や、近年の観測・研究成果など、南極地域観測の今を御紹介します。

新型コロナウイルス感染症の中での南極地域観測の実施
令和3年2月22日に南極地域観測隊(第61次越冬隊及び第62次夏隊)が南極観測船「しらせ」に乗船し、横須賀港(海上自衛隊横須賀地方総監部)への帰国を果たしました。
今次隊の派遣に当たっては、新型コロナウイルス感染症の影響が拡大する中、南極地域観測をどのように実施するのか検討を進めました。この状況においても南極地域観測事業の継続を目指すため、
昭和基地での越冬及び観測継続のため、「越冬隊の交代」と「物資の輸送」を基本とし、その他の計画については支障のない範囲に絞り込むとともに、
観測隊員及び「しらせ」乗組員の安全を確保するため、適切な感染防止対策を講じつつ、「しらせ」及び南極での発生防止を徹底
するという基本的な方針の下、具体的には、
「しらせ」は、他国に寄港しない(燃料補給をしない)ことを前提に、日本と昭和基地間を単純往復すること
観測隊員も日本と昭和基地間を単純往復(通常、隊員は寄港地で「しらせ」に乗下船)させるとともに、夏隊の隊員数を例年より減少させること
「しらせ」乗船前に2週間の検疫期間を設定
検疫期間前後に感染が確認された場合に備え、交代要員を用意すること
先遣隊や別動隊は編成しないこと
としました。
このような新型コロナウイルス感染症への感染防止の徹底を第一に考えた計画の下、観測史上初の無寄港・無補給での派遣を実施し、帰国まで感染者を出すことなく、当初の計画どおり、「越冬隊の交代」及び「物資の輸送」を実施することができました。現在、昭和基地では、第62次越冬隊が観測や研究などを引き継ぎ、活動をしています。
今次隊は、例年に比べて昭和基地の夏期滞在期間が短縮されましたが、今年1月に発生した成層圏突然昇温現象(北極の成層圏(地球の大気の層の一つで、対流圏と中間圏の間に位置する。高度の下限は緯度により異なり、極地で約8㎞、緯度が低くなるに従って高くなり、赤道付近で約17㎞。上限は約50㎞)で気温が数日で50℃以上上昇すること)に対する全地球大気の応答を調べるため、昭和基地に設置した大型大気レーダー(PANSYレーダー)を用いた国際協同観測を主導し、地球の大気の層の一つである中間圏(高度は約50~90㎞)の良好な観測データの取得に成功するなどの成果を上げました。これにより中間圏のダイナミクスを解明し、気候現象の早期予測に貢献することが期待されます。

南極地域観測事業とは
南極地域観測事業は、昭和30年に閣議決定された「南極地域観測への参加および南極地域観測統合推進本部の設置について」(昭和30年11月4日閣議決定、平成22年11月2日一部改正)に基づき、南極地域観測統合推進本部(本部長:文部科学大臣)の下、関係各省庁が連携して研究観測や輸送などを分担して進めている国家事業です。
昭和基地において実施している観測には、
情報通信研究機構、国土地理院、気象庁、海上保安庁、文部科学省が責任を持って予算及び隊員を担保し、毎年確実に遂行されることとされている「定常観測」
中長期的な継続観測を前提に、確立された観測手法に基づき、自然現象を明らかにしようとする「モニタリング観測」
に加えて、
研究分野を超えた観測横断的な発想のもとで提案されたシーズを基に企画される大型共同研究観測である「重点研究観測」
さらには、
研究者の自由な発想に基づく研究観測や調査として、南極の特色を生かして比較的短期間に集中して実施される「一般研究観測」
将来の研究観測の新たな発展に向けた予備的な観測・調査・技術開発などを目的とする「萌芽研究観測」
があります。一般研究観測及び萌芽研究観測は公募に基づき実施するなど、多くの研究者に門戸を広げて観測を実施しています。
また、南極地域観測事業では、観測・研究だけでなく、情報発信にも積極的に取り組んでいます。国民の皆さまに対して南極地域観測事業の成果や活動等を多用なメディアを活用して広報するとともに、南極への教員派遣等を通して、教育現場との双方向の連携を図っています。加えて、若手研究者の育成に注力し、大学院学生の南極地域観測隊への参加を進めています。

改めて、なぜ南極なのか
南極は、人間活動から遠く離れた場所にあるため、地球大気の変化を高精度で捉えることができます。南極は、現在、海氷の急速な減少をはじめ地球温暖化の影響が最も顕著に現れていることなどから注目されている北極域と磁力線で繋がっているほか、地球周辺の宇宙の現象を捉えやすいことから「宇宙の窓」と呼ばれており、両極を共に観測・研究することが重要です。
また、地球規模の気候変動システムを理解し、将来の気候を高精度で予測することは大きな社会的な要請です。そのため、地球規模の気候変動解明の鍵であるとされる南極域で、現在進行している温暖化等の環境変動シグナル及びその影響を精密観測によって定量的に把握することが強く求められています。
昭和基地では、60年以上に渡り継続的に観測を実施しています。これまでも、オゾンホールの発見や、過去72万年前の気候変動解明に資する3000mを超える氷床掘削、大型大気レーダー(PANSYレーダー)によるオーロラ発生の仕組みの解明など様々な成果を生み出しています。
南極には地球上の氷の大部分が存在しており、南極の氷が全て融けると地球上の海水面が約60m上昇すると言われています。トッテン氷河は、東南極最大級の規模を誇り、その融解は世界の海水面に大きな影響を与える可能性(トッテン氷河が全て融けると地球の海水面が4m上昇すると言われています。)があるため、昨年度、第61次南極地域観測隊が世界に先駆けて大規模な海洋集中観測を実施し、トッテン氷河を海が下面から融かしているプロセス(暖かい海水の流入経路や量、トッテン氷河の融解量、融解水の流出経路など)を詳細に観測しました。今後も精力的に観測を実施していく予定です。

最後に
「南極地域観測」や「南極地域観測隊」という言葉を御存じの方は多くいらっしゃると思いますが、具体的に南極地域観測や南極地域観測隊がどのようなことを行っているかまで御存じの方は少ないように思います。(何かをきっかけに興味を持たれましたらもう少し先まで情報を探ってみてもらえると幸いです。)
興味を持たれた方は、ぜひ以下のURLを覗いてみてください。
〈URL〉
https://www.nipr.ac.jp/antarctic/

<音声トップページへ戻る>