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特集
地域における文化観光の推進について

文化庁参事官(文化観光担当)付

文化観光推進法は、地域において文化についての理解を深める機会を拡大し、これによる国内外からの観光旅客の来訪を促進することで、文化の振興を、観光の振興と地域の活性化につなげ、これによる経済効果が文化の振興に再投資される好循環を創出することを目的とする法律で、令和2年4月17日に公布され、同年5月1日に施行しました。本法を活用し、文化資源の魅力向上とともに、文化施設の機能強化や地域が一体となった文化観光の推進を図ることとしています。

文化観光を取り巻く現状
観光の振興は、政府の最重要政策の一つであり、「経済財政運営と改革の基本方針2019」(令和元年6月閣議決定)において、「訪日外国人旅行者数を2020年に4000万人、2030年に6000万人とする目標等を達成し、観光立国を実現するため、各省庁、民間、各地域が一体となって施策を実行する」とされています。
我が国における観光資源の中で重要な位置付けを占める文化に関する観光の一つである「文化観光」については、「観光立国推進基本計画」(平成24年3月閣議決定)において、「文化観光とは、日本の歴史、伝統といった文化的な要素に対する知的欲求を満たすことを目的とする観光である。観光立国の実現のためには、観光による交流を単に一回限りの異文化、風習との出会いにとどめることなく、より深い相互理解につなげていくことが重要である。」とされています。
一方で、文化の振興の観点からも、平成29年に文化芸術基本法(平成13年法律第148号)が改正され、文化芸術そのものの振興にとどまらず、観光やまちづくり等の関連分野における施策を同法の範囲に取り込むこととなりました。また、平成30年の文化財保護法(昭和25年法律第214号)及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)の一部改正では、文化財保護行政を地方の判断で首長部局に移管できることとされ、首長部局が担当する地域の観光等と連携した一体的な文化行政が行いやすくなりました。
このように、政府として文化と観光の連携を推進する中で、文化的所産等の文化に関する資源(文化資源)を保存・活用する施設(文化資源保存活用施設)の中から、来訪者が文化についての理解を深めることができるように解説・紹介を行い、地域の文化観光の推進に関する事業を行う者(文化観光推進事業者)と連携することにより、地域における文化観光の推進の拠点となる施設(文化観光拠点施設)が各地で生まれてきています。
我が国の豊富で多様な観光資源の主要なものである文化資源の魅力を国内外に伝えて、文化観光を推進することは、文化を保存・継承・発展させ、更に新たな文化の創造に向かう文化の振興においても、経済の牽引や国際相互理解の増進につながる観光の振興においても重要です。また、文化の振興及び観光の振興は、地域に新しい文化を育み、人の往来や購買・宿泊などの地域における消費活動の拡大などにつながることで、地域の活性化にも資するものであり、これにより、文化の振興、観光の振興、地域の活性化の好循環を図ることができます。
今般、国が、上述のような文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進を通じて、文化の振興・観光の振興・地域の活性化の好循環の創出を図り、もって豊かな国民生活の実現と国民経済の発展につなげることが重要な政策課題となっています。

文化観光の方向性
文化観光の担い手として、文化観光資源の中核となるコレクションをもつ博物館(歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等の多様な分野を含む)等の文化施設のうち、意欲があり、積極的な取組を行う施設を「文化観光拠点施設」としてとらえ、文化観光拠点施設が、その機能を一層強化する計画を持つ場合に、国からの集中的な支援を講じることで、我が国の文化の振興、観光の振興の双方に資する価値を磨き上げるモデルをつくりあげることが可能となります。
加えて、当該拠点へのアクセスも含めた利便性の向上や、当該施設を中核として、地方公共団体が総合的かつ一体的にその地域における文化観光を推進し、地域において来訪者が楽しめる工夫などを行い、個別施設だけでは実現困難な「文化観光を推進する地域」の形成も必要です。
文化観光拠点施設は、有形又は無形の文化的所産などの魅力的な文化資源を有し、その魅力をわかりやすく解説・紹介することを通じ、文化観光に資するという機能を果たすことが求められます。また、文化観光拠点施設は、旅行業者等の民間事業者や観光地域づくり法人(DMO)、観光協会等の地域において文化観光の推進を戦略的に行うための企画・立案ができる者(文化観光推進事業者)との連携により文化観光拠点施設の魅力づくりを行う必要があります。文化観光推進事業者は、多様な関係者の合意形成や、各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略(ブランディング)の策定、KPIの設定・PDCAサイクルの確立、関係者が実施する観光関連事業と戦略の整合性に関する調整・仕組み作りなどを担います。文化観光拠点施設は、様々な年齢層、多様な国籍や文化背景を持つ者、障害のある方など国内外の幅広い来訪者に文化資源の価値をわかりやすく伝えていく施設であることをそのミッションとして明確にしていることが求められます。また、このような文化観光拠点施設を中核として、文化観光の推進を総合的かつ一体的に図ろうとする地域においては、地方公共団体と文化観光拠点施設とが有機的な連携を進め、地域が一体となって文化観光の推進に取り組むことが重要です。

文化観光推進法の概要
こうしたことを踏まえ、第201回通常国会に「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律」(令和2年法律第18号)を提出し、令和2年4月10日に成立し、同月17日に公布、同年5月1日に施行しました。
上述のとおり、我が国には、文化財をはじめ、有形・無形の貴重かつ魅力のある文化資源が多く存在します。これらの文化資源の保存・修復などを適切に進めていくことを大前提として、多くの人々に文化資源の魅力を伝えることは、文化の保存・継承の意義の理解につながり、新たな文化の創造・発展につながるものです。文化の振興を起点として、経済の牽引や国際相互理解の増進につながる観光の振興を図り、さらには、人の往来や購買・宿泊等の消費活動の拡大などを通じた地域の活性化を実現することで、新しい文化の創造も含めた文化の振興に再投資される好循環が創出されます。
文化の振興・観光の振興・地域活性化の好循環を創出する原動力となるのは、地域でまだ十分に光が当てられていない文化資源を含めた様々な文化資源の魅力に触れ、文化への理解を深めることができる機会を国内外からの幅広い来訪者に提供することです。このような取組を、文化観光推進法では、第2条第1項において「有形又は無形の文化的所産その他の文化に関する資源(以下「文化資源」という。)の観覧、文化資源に関する体験活動その他の活動を通じて文化についての理解を深めることを目的とする観光」すなわち「文化観光」と位置付けました。
このような文化観光を推進するに当たっては、文化資源の展示、上演、行事の開催を行うだけではなく、文化資源の文化的・歴史的背景を適切にわかりやすく表現することによって、来訪者が文化資源についての理解を深めることができる取組が必要です。文化資源の保存及び活用を行う博物館、美術館、社寺、城郭等の文化資源保存活用施設が、地域の事業者と連携しつつ、文化資源の魅力をわかりやすく解説・紹介し、常にその魅力に触れることができる場となることによって、地域の文化観光の推進の拠点となります。このような施設を、法第2条第2項において「文化観光拠点施設」として位置付けており、地域の文化観光の推進の拠点としての機能強化及びこれを中核に据えた地域一体の取組を推進することによって、国内外からの来訪者が、我が国や地域が固有に持つ文化や歴史、自然についての理解を深めることができるようにすることが重要です。
また、地域住民が文化財などの文化資源の価値を再認識するとともに、文化観光拠点施設の機能強化や地域における文化観光の推進に関する各事業に積極的に参画することにより、地域への愛着心が高まり、地域住民自らの情報発信など、地域の活性化にもつながります。
文化観光推進法は、我が国の各地域において、文化の振興を起点とした、観光の振興、地域の活性化の好循環を創出していくため、法に基づく特別の措置その他の総合的な支援により、文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光を推進し、これを実現していくものです。

○拠点計画と文化観光拠点施設機能強化事業
文化観光拠点施設は、国内外からの様々な年齢層、国籍や文化背景を持つ者、障害者など幅広い来訪者に文化資源の魅力を分かりやすく解説・紹介する施設として、文化観光推進事業者と連携し、地域における文化観光の推進の拠点となるものです。このような文化観光拠点施設の機能を強化するために、文化資源保存活用施設の設置者は、文化観光拠点施設としての機能強化に関する計画(以下「拠点計画」という。)において法第2条第3項で規定する「文化観光拠点施設機能強化事業」を実施することとしています。

文化観光拠点施設機能強化事業は以下のような事業です。
・文化資源保存活用施設における文化資源の魅力の増進に関する事業
例)文化資源の魅力の解説・紹介や情報発信、関係者間の調整など文化観光の推進に関する専門的知見を有する人材の育成・確保
・文化資源保存活用施設における情報通信技術を活用した展示、外国語による情報の提供その他の国内外からの観光旅客が文化についての理解を深めることに資する措置に関する事業
例)文化資源の魅力を理解する上で重要な歴史的、文化的背景について、文化資源の相互の関連性や明確なテーマを設定したストーリー性のある分かりやすい解説・紹介の実施
・文化資源保存活用施設に来訪する国内外からの観光旅客の移動の利便の増進その他の文化資源保存活用施設の利用に係る文化観光に関する利便の増進に関する事業
例)交通事業者等と連携し、様々な交通手段(鉄道、バス、タクシー、旅客船、航空等の公共交通や、レンタカー、自転車、徒歩、自家用車等)を活用した、快適で満足度の高い来訪の実現
・文化資源保存活用施設が保存及び活用を行う文化資源に関する工芸品、食品その他の物品の販売又は提供に関する事業
例)ミュージアムカフェやミュージアムショップ等の充実
・国内外における文化資源保存活用施設の宣伝に関する事業
例)国内外の来訪者が必要とする情報やサービスを的確に提供できる多言語でのホームページ等の情報発信環境の整備
・上記の事業に必要な施設又は設備の整備に関する事業

○地域計画と地域文化観光推進事業
文化観光の推進を総合的かつ一体的に図ろうとする地域においては、地方公共団体、文化観光拠点施設、文化観光推進事業者等が有機的に連携することが重要であり、そのことによって地域の活性化に寄与します。このような地域における文化観光の総合的かつ一体的な推進を実現するため、文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の総合的かつ一体的な推進に関する計画(以下「地域計画」という。)において、法第2条第4項で規定する「地域文化観光推進事業」を実施します。

文化観光拠点施設機能強化事業は以下のような事業です。
・地域における文化資源の総合的な魅力の増進に関する事業
例)都市公園や道路、港湾にオブジェ等を設置するなど地域が一体となったアート空間の創出
・地域内を移動する国内外からの観光旅客の移動の利便の増進その他の地域における文化観光に関する利便の増進に関する事業
例)地域への来訪及び地域内の周遊のために必要となる共通乗車船券の発行
・地域における文化観光拠点施設その他の文化資源保存活用施設と飲食店、販売施設、宿泊施設その他の国内外からの観光旅客の利便に供する施設との連携の促進に関する事業
例)文化観光拠点施設周辺の店舗や商店街等との連携によるまち歩きの充実
・国内外における地域の宣伝に関する事業
例)国内外へのプロモーションの実施(地方公共団体や文化資源保存活用施設の設置者自ら実施することに加え、独立行政法人国際観光振興機構(日本政府観光局・JNTO)や文化観光推進事業者等が実施する取組を含む。)
・上記の事業に必要な施設又は設備の整備に関する事業

文化観光推進法による支援
文化観光の推進に当たっては、文部科学省、国土交通省をはじめとする関係省庁が連携することで、予算、税制、手続の簡素化など、国による総合的な支援を図っています。このため、主務大臣による認定を受けた拠点計画及び地域計画に基づく取組に対しては、文部科学省及び国土交通省は、本法による特例措置、支援事業等による支援を行います。また、個々の計画の内容に応じて、関係省庁とも連携して支援を図るよう努めるものとしています。
【財政的支援】
・認定を受けた拠点計画や地域計画に基づき実施される事業に対し、博物館コレクション等の磨き上げ、Wi-Fiやキャッシュレス等の整備、学芸員等の体制支援、バリアフリー等の利便性向上改修や展示改修等の取組を支援します。

【税制】
・文化観光拠点施設(独立行政法人等が設置者の場合)のコレクションの充実を図るために、個人が美術品を寄附する際に必要な税制上の手続に関して特例措置(自動承認特例)を設けています。

【手続の簡素化等】
①交通アクセスの向上拠点計画又は地域計画に基づき、交通事業者が実施する共通乗車船券(1枚の切符で複数の運送事業者にまたがって乗車船を行うことができ、かつ一定の範囲内では複数回乗り降りすることができるもの)の発行や、バス、船便の増便の手続の簡素化を行います。

②都市公園、道路、港湾におけるオブジェ等の設置に関する取組等地域計画に基づき、文化観光拠点施設の周辺にある都市公園、道路、港湾においてオブジェ等を設置する場合や拠点計画・地域計画に基づき行われる展覧会の実施により渋滞が発生し得る場合等は、計画の作成や認定に際し、関係機関に対して事前に十分に協議が必要であり、そのような協議がなされたときは、関係機関は、オブジェ等の設置に係る手続の円滑化等に配慮することとしています。

③文化財の登録提案権の付与
地域計画を作成した地方公共団体については、調査の結果、当該地域に文化財として保護すべき価値のある文化財が存在することが分かった場合には、当該文化財について、法第16条の規定に基づき、文化財の登録の提案を行うことができることとしています。

【国及び地方公共団体による助言等】
法第18条第1項の規定に基づき、国及び地方公共団体は、拠点計画・地域計画の認定を受けた者に対し、当該計画の円滑かつ確実な実施に関し必要な助言等を行うこととしています。

【独立行政法人による助言・支援】
・国立博物館等による文化への理解の促進に関する助言
独立行政法人国立科学博物館、独立行政法人国立美術館、独立行政法人国立文化財機構及び独立行政法人日本芸術文化振興会は、文化資源の保存及び活用や文化の振興に知見を有していることから、法第19条の規定に基づき、多言語化対応や外国人向け体験プログラム等に関する助言や研修等を行うよう努めることとしています。
・日本政府観光局による海外向けプロモーションの実施
法第20条の規定に基づき、国外からの観光旅客の来訪を促進するため、日本政府観光局は、拠点施設・地域計画の計画区域について海外における宣伝を行うほか、これに関連して、拠点計画・地域計画の認定を受けた者に対し、その求めに応じ、海外における宣伝の助言等に努めることとしています。

【国等による資料の公開への協力】
法第21条の規定に基づき、国、独立行政法人国立科学博物館、独立行政法人国立美術館又は独立行政法人国立文化財機構は、文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に資するため、その所有する資料を文化観光拠点施設において公開の用に供するために出品するよう当該文化観光拠点施設の設置者(まだ文化観光拠点施設の機能を有していない文化資源保存活用施設である場合には、拠点計画の申請を行うこと等により文化観光拠点施設にしようとする場合を含む)から求めがあった場合には、これに協力するよう努めることとしています。

計画の認定
本年5月29日(金)~6月30日(火)にかけて拠点計画・地域計画の認定の申請を受け付け、有識者委員会による審査を経て、次の10件(うち拠点計画4件、地域計画6件)について、主務大臣による認定を行いました。
・横手市増田まんが美術館を中核とした地域資産活用地域計画
・群馬県立歴史博物館イノベーション文化観光拠点計画
・天王洲アートシティ創造推進施設
「TERRADAARTMUSEUM(仮称)」拠点計画
・特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡を中核とする地域文化観光推進地域計画
・山梨県文化観光推進地域計画
・徳川美術館の文化観光拠点計画
・屋根のないミュージアム・堺地域計画
・いかす・なら地域計画
・大原美術館を中核とした倉敷美観地区の文化・観光推進拠点計画
・阿蘇ジオパークの拠点施設を中核とした文化観光の推進に係る地域計画

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