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特集1
スーパーコンピュータ「富岳」がスパコンランキングで世界1位を獲得

文部科学省研究振興局参事官(情報担当)付計算科学技術推進室

令和3年度の共用開始を目指し、理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)にて整備・調整を進めているスーパーコンピュータ「富岳」がHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議「ISC2020」において発表されたスパコンランキングの4部門で世界1位を獲得しました。TOP500については、昨年8月に運用を終了したスーパーコンピュータ「京」が平成23年11月に世界1位を獲得して以来の首位奪還となります。また、4部門同時の世界1位獲得は世界初の快挙であり、「富岳」の性能と汎用性の高さを世界に示す結果となりました。

スパコンランキング4部門で世界1位を獲得
スパコンランキングは、年2回(6月・11月)開催されるHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング:高性能計算技術)に関する国際会議において発表されるスパコンの各種性能を評価する世界ランキングです。ランキングには、スパコンの単純な科学技術計算性能を測定するTOP500をはじめとする複数の部門があります。今回、「富岳」は、TOP500、HPCG、HPL-AI、Graph500の四つの部門で、2位に大きな差をつけて世界1位を獲得しました。

「富岳」が世界1位を獲得したランキング部門
○TOP500 1993年~
LINPACKベンチマークの実行性能を指標として、世界で最も処理速度が高速なコンピュータシステムの上位500位までをランク付けしたものです。
なお、LINPACKベンチマークとは、行列計算による連立一次方程式の解法プログラムです。昨年8月に運用を終了した「京」が平成23年11月に1位を獲得して以来、実に8年半ぶりの首位奪還となりました。

○HPCG 2014年~
TOP500は、単純な科学技術計算性能を評価するものであり、実際にアプリケーションを実行する際の性能を適切に評価できておらず、また、ベンチマークテストに長時間を要するといった課題がありました。これらの課題に対応するために設立されたのがHPCGです。HPCGは、疎な係数行列から構成される連立一次方程式を解く計算手法である共役勾配法を用いたベンチマークプログラムです。

○HPL-AI 2020年~(新設)
LINPACKやHPCGは、倍精度演算(10進で16桁の浮動小数点数)のみで計算することが規定されています。しかし、近年、低精度演算(10進で5桁若しくは10桁)を実行するGPUや人工知能向けの専用チップを搭載し、高性能化した計算機が多く登場しています。こうした状況を受けて、これらの計算機の高性能な演算能力を適切に評価するために、LINPACKベンチマークを改良し、低精度演算による計算性能を評価するベンチマークプログラムとしてHPL-AIが設立され、今回の国際会議で初めてランキングが発表されました。
「富岳」は、測定において、1.42EFLOPS(エクサフロップス)と世界で初めて1EFLOPS(エクサフロップス)を超える値を記録しており、人工知能計算やビッグデータ解析の研究基盤としてSociety5.0社会への貢献が期待されます。

○Graph500 2013年~
実社会における複雑な現象は、大規模なグラフ(頂点と枝によりデータ間の関連性を示したもの)として表現される場合が多いため、社会課題の解決にはコンピュータによる高速なグラフ解析能力が必要とされています。こうしたグラフ解析の性能をランク付けしたものがGraph500です。この部門では、「京」が2014年6月から2019年6月まで9期連続(通算10期)で世界1位を維持してきました。これまで「京」の測定値は「富岳」を除いて、いまだに破られておらず、引き続き1位を維持することとなりました。

これら4つの部門以外にも、スパコンの消費電力性能をランク付けしたGreen500(2005年~)があり、「富岳」は世界9位を獲得しています。この部門では、「富岳」以外にも、1位「MN-3」(Preferred Networks)、3位「NA-1」(PEZY Computing)、4位「A64FX prototype」(富士通(「富岳」試作機))と日本のスパコンが上位にランキング入りしています。

世界初となるランキング4部門での世界1位獲得
ランキング4部門で同時に世界1位を獲得するのは「富岳」が世界初となります。この結果を受けて、理化学研究所の松本理事長は、記者会見の場において「富岳」を〝四冠機〟と称しました。

○開発コンセプト
平成26年度から開始されたポスト「京」(「富岳」)の開発は、①最大で「京」の100倍のアプリケーション実行性能の実現、②消費電力30~40MWの実現を目標に進められてきました。また、当初からシステムとアプリケーションを協調的に開発(Co-design)することで、利用者に使い勝手の良い世界最高水準の計算機の開発を目指してきました。今回のスパコンランキング4部門での世界1位獲得は、正に「富岳」が世界最高水準の性能と汎用性を備えた計算機であることを証明したといえます。

○「富岳」の名称
「富岳」の名称は、昨年5月に実施した一般公募の中から決定されました。日本を代表する山である〝富士山〟の異名として、富士山の「高さ」が「性能の高さ」を表すとともに、富士山の「裾野の広がり」が「ユーザーの広がり」を意味しています。
今回のスパコンランキングにおける世界1位の獲得は、富士山の「高さ」で表される「性能の高さ」を示したことに他なりません。
今後、その性能の高さを活かし、富士山の「裾野の広がり」のごとく健康医療、気象・防災をはじめとした多種多様な分野で利用が進み、多くの成果が生み出されることが期待されます。

「富岳」の概要
「富岳」は、昨年12月に製造を担当する富士通ITプロダクツ(石川県かほく市)から出荷を開始し、今年5月に理化学研究所計算科学研究センター(兵庫県神戸市)へ全432の筐体の搬入が完了しました。現在、令和3年度の共用開始に向けて調整作業を行っています。

今回のスパコンランキングへのエントリーには、すべての筐体を使用した最大限の計算能力で挑むことはできず、各部門のベンチマークを実行するための調整が完了したおおむね6割~9割程度の計算能力により実施した測定結果でエントリーしました。整備・調整が完了し、最大限の計算能力を発揮した場合は、更に高い測定結果が得られることが見込まれます。

○「富岳」の性能
昨年8月に運用を終了した「京」は、その名称の由来となったとおり計算速度が11PF(ペタフロップス)であり1秒間に約1京=10の16乗回以上の計算が可能でした。後継機となる「富岳」は、全筐体の稼働時の計算速度が最大537PF(ペタフロップス)と「京」から飛躍的に向上しています。これまで、スパコンランキングTOP500で首位を保持してきた米国のスパコン「Summit」の計算速度が200PFであることからも2倍以上の差をつけています。
一方で、スパコンの運用には非常に大きな電力が必要となります。「京」の消費電力12.7MWと比較して、「富岳」の消費電力は30~40MWと「京」から計算性能が飛躍的に向上したにも関わらず、その増加を小さく抑えています。

「富岳」を活用した成果の創出
「富岳」は、世界的な感染拡大から喫緊の課題となっている新型コロナウイルスに関する研究の推進をはじめ、防災・減災や、ものづくりなど産業への応用、全ての人とモノがつながり、今までにない新たな価値を生み出す超スマート社会の実現を目指すSociety5.0社会における社会的課題の解決に資する等技術開発を加速するため、その高い性能を発揮し、成果を社会に還元していくことが期待されています。

成果創出に向けた取り組み
「富岳」の共用開始は令和3年度中を予定していますが、いち早い「富岳」の利用による裾野拡大を目指し、システム調整段階において利用可能な計算資源を用いた試行的利用を本年度から開始しています。

「富岳」では、取り組むべき国家的課題の解決を目指すため、社会的・科学的課題として、次の九つの重点課題と新たに取り組むべきチャレンジングな課題として四つの萌芽的課題を選定し、システム開発とともにアプリケーションの開発を進めてきました。今後は、これらのアプリケーションを活用して、早期の成果創出を目指します。

(健康長寿社会の実現)
①生体分子システムの機能制御による革新的創薬基盤の構築
②個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学
(防災・環境問題)
③地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築
④観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化
(エネルギー問題)
⑤エネルギーの高効率な創出、変換・貯蔵、利用の新規基盤技術の開発
⑥革新的クリーンエネルギーシステムの実用化
(産業競争力の強化)
⑦次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成
⑧近未来型ものづくりを先導する革新的設計・製造プロセスの開発
(基礎科学の発展)
⑨宇宙の基本法則と進化の解明

これら重点課題以外にも、一般の利用者に向けた試行的利用の公募を7月21日に開始しました。

新型コロナウイルス対策研究課題の実施
新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を受け、早期の課題解決に貢献するために「富岳」において新型コロナウイルス対策研究課題へ使用可能な一部の計算資源を供出することを緊急的に決定し、現在、次の五つの課題を実施しています。
「富岳」は、政策的に重要かつ緊急な課題に対して貢献できるよう、今後も柔軟に対応してまいります。

①新型コロナウイルスの治療薬候補同定
分子動力学計算により、約2000種の既存医薬品の中から、新型コロナウイルスの標的タンパク質に高い親和性を示す治療薬候補を探索・同定する。(課題代表者:理化学研究所 科技ハブ産連本部医科学イノベーションハブ推進プログラム副プログラムディレクター/京都大学大学院医学研究科教授 奥野 恭史氏)
(中間成果)
分子動力学計算(MOD法)により、臨床試験の対象となっている既存の抗ウイルス薬に限定しない2,128種類の既存医薬品と新型コロナウイルスに関連する標的タンパク質(メインプロテアーゼ)の親和性を分子レベルでシミュレーションし、数十種類の医薬品が高い親和性を示すことがわかりました。なお、今回の標的タンパク質(メインプロテアーゼ)は、ウイルスが細胞に侵入し、増殖する過程で作用する酵素タンパク質です。
判明した数十種類の医薬品の中には、既に海外で臨床試験が開始されたものなども含まれており、結果の信頼性は高く、今後、研究所、製薬企業等と連携してこれらの治療薬候補を治験につなげていく予定です。また、その他の標的タンパク質にも順次同様の手法を用いたシミュレーションを実施していきます。

②新型コロナウイルス表面のタンパク質動的構造予測
クライオ電子顕微鏡によって解かれたウイルス表面タンパク質の立体構造を初期モデルとして、その立体構造の動きを「富岳」を用いた分子動力学計算で予測する。(課題代表者:理化学研究所計算科学研究センター粒子系生物物理研究チームチームリーダー 杉田 有治氏)
(中間成果)
新型コロナウイルスが細胞に侵入する過程で、ウイルス表面の突起(S protein)の一部の構造(RBD)が転移し、細胞の受容体(ACE2 receptor)と結合します。今回、分子動力学計算を用いたシミュレーションを行うなかで不活性な構造(RBDが閉じた構造)から活性な構造(RBDが開いた構造)へ転移する途中過程で、活性状態よりRBDがより開いた状態が存在することがわかりました。このようにS proteinの不活性状態から活性状態への構造転移の過程を詳細に分析することで、構造転移の阻害に作用する薬剤の開発への貢献が期待できます。

③パンデミック現象及び対策のシミュレーション解析
今後生じうる社会経済活動への影響を評価し、収束シナリオとその実現方法を探る。併せてウイルスの変異などにより感染・発病の経過が変化した場合に起こりうる事象への対応を立案する。(課題代表者:理化学研究所計算科学研究センター離散事象シミュレーション研究チームチームリーダー 伊藤 伸泰氏)
(中間成果)
接触確認アプリの効果:一定の条件下で接触確認アプリがどの程度の効果を発揮するか検証した結果、濃厚接触者への発症からアラート発報の期間が短いほど有効であることがシミュレーション上でも確認されました。また、アラートの発報対象者を6日以上遡って発報した場合、と発報対象者を10日以上隔離した場合のいずれにおいても感染者割合の最大値にはほとんど変化がありませんでした。さらに、感染者割合の低減効果はアプリ普及率の2乗に比例した関係にあることが確認されました。
経済への影響評価:活動自粛による経済への影響をシミュレーションし、活動自粛が全国で2か月間続いた場合には最大でGDPを7.8%押し下げる結果を得ています。
今後、SNSデータを用いた社会への影響評価を実施し、新型コロナウイルスの感染拡大や活動自粛によりどのような社会的影響を受けているか検証していきます。

④新型コロナウイルス関連タンパク質に対するフラグメント分子軌道計算
新型コロナウイルス関連タンパク質に対するフラグメント分子軌道計算を系統的に実施し、詳細な相互作用解析を行う。(課題代表者:立教大学理学部教授 望月 祐志氏)
(中間成果)
生態環境下でのフラグメント分子軌道法(FMO)を用いメインプロテアーゼとN3阻害剤・既存薬剤(ネルフィナビル、ロピナビル)の相互作用を検証した結果、ネルフィナビルはN3阻害剤と同程度の結合度合いを示し、ロピナビルは6割程度の結合度合いであるとの結果が得られました。既存薬剤の結合性評価や新規化合物の相互作用ベースの設計に貢献することが期待されます。
また、スパイクタンパク質の不活性時と活性時の構造におけるタンパク質内部のアミノ酸残基レベルでの相互作用をFMOにより可視化し、RBDにおいて特に顕著な差が確認されました。

⑤室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策
通勤列車内、オフィス、教室、病室といった室内環境において、新型コロナウイルスの特性を考慮した飛沫の飛散シミュレーションを行い、感染リスク評価を行った上で、感染リスク低減対策の提案を行う。(課題代表者:理化学研究所計算科学研究センター複雑現象統一的解法研究チームチームリーダー/神戸大学大学院システム情報学研究科教授 坪倉 誠氏)
(中間成果)
不織布マスクの使用時のウイルス飛沫の飛散状況、満員時と閑散時及び窓開閉時とドア開閉時の列車内の飛沫飛散状況、湿度による飛沫エアロゾルの飛散状況、パーテーションを使用した際の飛沫飛散の防止効果、室内ではオフィスと病室の飛沫飛散状況をそれぞれシミュレーションし、視覚的に表しました。それぞれ一定の条件下でのシミュレーション動画になりますが、”新たな生活様式“の実現に向けたガイドラインの作成や効果的な感染防止対策の検討への貢献が期待されます。

文部科学省としては、「富岳」がSociety5.0を支える重要な研究基盤であり、日本の高い技術力のシンボルとして、国内の大学や産業界などに広く利活用されるとともに、国際的にもその成果が発信されることを目指して、引き続き令和3年度の共用開始に向けて「富岳」の整備を着実に実施し、早期の成果創出に向けて、取り組んでまいります。

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