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「マテリアル革新力強化のための政府戦略策定に向けて(戦略準備会合取りまとめ)」を公開

文部科学省研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

令和2年6月、文部科学省及び経済産業省の有識者会合において、我が国の科学技術イノベーションの強みである「マテリアル」の革新力強化に向けた報告書を取りまとめました。

社会変革の歴史を振り返れば、そこには全て物質、材料、デバイスといったマテリアルが存在していました。実社会が仮想(バーチャル)空間でなく、人やモノが動く現実(リアル)空間である以上、デジタルとマテリアルの両技術がそろって初めて社会が駆動します。しかし近年、急伸するデジタル技術への期待にハードウェアが追いつかず、世界のIT企業がハードウェア企業を買収する事例が多発するなど、コトづくりを中心とする世界のビジネスの中で、デジタルに続くマテリアルのイノベーションの必要性が大きく指摘されています。我が国が第5期科学技術基本計画で提唱したSociety 5.0の実現に向けても、バーチャルとリアルの融合、デジタル・イノベーションを支えるマテリアル・イノベーションが不可欠です。
そして今や、あらゆる領域からマテリアル・イノベーションが求められています。我が国が重視するAI、バイオ、量子といった先端技術分野の強化、SDGsの達成、パリ協定の長期目標の達成、資源・環境制約の克服、安全・安心社会や健康長寿社会の実現といった社会課題の解決には、マテリアルの革新が決定的に重要です。
加えて、近年、米中貿易摩擦等に伴うマテリアルのグローバル・サプライチェーンの大きな変化や、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い、サプライチェーン断絶のリスクの存在が改めて浮き彫りとなっています。経済安全保障上の観点から、我が国のサプライチェーンを強じん化するためのマテリアル・イノベーションが求められています。
一方で、こうしたマテリアルの研究開発に、現在大きな変革期が訪れています。AI・ビッグデータの発展が研究開発手法を大きく変化させ、研究開発から産業化までの期間が長いという特徴を持つマテリアルにおいても、研究開発期間の短縮、低コスト化を目指すデータ駆動型研究開発の取組が世界的に進展しています。これにより、例えば、ニーズから未知のマテリアルを探索・開発する手法も現実のものとなってきています。世界各国で取組競争が進む中、産学官の良質なマテリアルデータを保有する我が国が、先手を打ってデータを戦略的に収集、利活用できる仕組みを構築し、圧倒的な生産性向上と新たな価値創出を実現することができれば、マテリアルから世界の産業・イノベーションを大きくリードすることが可能です。
また、新型コロナウイルス感染症が発生・流行する中、産学官のマテリアルに係る研究開発活動が停滞する一方、人々の価値観や行動様式に変化が生まれつつあり、研究開発現場や製造現場におけるデジタルトランスフォーメーションを一気に加速できる機会でもあります。
さらに、我が国発のマテリアルは、これまで数多くのイノベーションを生み出し、日本、そして世界の経済・社会を支えてきました。マテリアルは、我が国において大きな強みを有する技術領域であることに疑いはなく、マテリアルの重要性が拡大している現状は我が国の科学技術イノベーション全体にとっての大きなチャンスです。他方で、近年こうした我が国の強みが失われつつある危機に直面しています。危機にある今こそ、残された我が国の「強み」に立脚した戦略を打ち出すべき時期に来ているのです。
こうした状況を受け、文部科学省及び経済産業省は、令和2年2月、物質、材料、デバイスといった「マテリアル」の産業・イノベーション上の重要性の拡大と、我が国のマテリアルの強みが大きな危機にある現状等を受けて、マテリアル・イノベーションを創出する力(ポテンシャル)である「マテリアル革新力」の強化に向けた検討を開始しました。その後、同年4月、両省の下に「マテリアル革新力強化のための戦略策定に向けた準備会合」を設置し、統合イノベーション戦略2020及び第6期科学技術基本計画を視野に入れた本格的な検討を実施、同年6月にマテリアル革新力強化のための政府戦略策定に向けた基本的な考え方、今後の取組の方向性等を取りまとめました。
本取りまとめでは、10年後(2030年)を見据えつつ、今後当面推進すべき取組として以下の4つを挙げています。
(1)データを基軸としたマテリアル研究開発のプラットフォーム整備
(2)重要なマテリアル技術・実装領域の戦略的推進
(3)マテリアル・イノベーションエコシステムの構築
(4)マテリアル革新力を支える人材の育成・確保
これらの取組を、相互に連携させつつ強力に推進していく必要があります。
近年では、マテリアルの研究開発のスピードアップ・低コスト化が求められ、研究開発を担う人材も不足しつつある状況の中、データを活用した研究開発の効率化、高速化、高度化と、これを通じた研究開発環境の魅力向上のための取組が重要となっています。そのために必要なのが、産学官の高品質なマテリアルデータを戦略的に収集・蓄積・流通・利活用できることに加えて、我が国の強みを基盤に、そうした高品質なデータが産学官から効率的・継続的に創出・共用化されるための仕組みを持つ、マテリアル研究開発のための我が国全体としてのプラットフォームの整備です。
マテリアルデータの中核拠点・ネットワークの形成、高品質なデータ創出・活用を可能とする共用施設・設備の整備、高度化、またデータ創出・活用型研究開発プロジェクトの推進等を包括的に取り組むことで、「マテリアルDXプラットホーム」の構築を推進します。
また、マテリアル・イノベーションを必要とする社会実装領域は多岐にわたっており、我が国の政策資源に限りがある中で、今後特に重視すべき実装先を明らかにした上で、我が国が真に伸ばすべき重要技術領域への戦略的かつ重点的な投資を行っていく必要があります。
重要技術・実装領域の推進に当たっては、領域の特性に応じて、一つの社会実装領域をターゲットに、産学官の研究開発活動とイノベーション活動をスピード感を持って一体的に推進する手法(バックキャスト型)と、複数の社会実装領域をターゲットに、国内外の研究者を結集し、異分野融合等を通じて当該技術の育成と多方面への実装を促進する手法(フォアキャスト型)を組み合わせることを基本に、マテリアルデータやプロセス技術といった我が国の強みを最大限活用した、基礎から出口までの一体的・戦略的な投資と仕掛けを行うことで、社会・国民が価値を実感できるイノベーションを創出することを目指します。
その他にも、ベンチャー企業等の新しいプレイヤーが次々と生まれるような多様な産学官のステークホルダーが参画・融合する新たなイノベーションエコシステムの構築や、データ専門人材、データ駆動型研究開発をツールとして駆使できるマテリアル研究者、数理・データサイエンス・AIの専門知識を持つマテリアル関連人材の育成等の取組を推進します。
このようなマテリアル革新力の強化に向けた取組が、日本の科学技術イノベーション力全体の強化につながり、もって我が国が世界の産業・イノベーションを先導していくことを目指します。

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