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特集
官民協働による新たな科学技術政策について
~産学官の有識者との政策対話を通じた若手職員からの政策提案~

文部科学省大臣官房政策課政策推進室

「官」と「民」が協働しながら、科学技術イノベーションの取組を進めていくことは、限られた資源の中で政策の効果を最大化していく観点や、研究を社会・産業にブリッジしていく観点から重要です。こうした官民協働の取組を具体化していくため、文部科学省の有志の若手職員が、幅広い有識者と対話を深め、それぞれの所属や所掌を超えた自由な発想で政策を議論・提案し、具体的な取組を9月3日に報告書としてとりまとめましたので御紹介します。

新たな官民協働に向けて
本年4月に公表した「研究力向上改革2019」において、研究資金の改革の論点として、産学連携による外部資金の拡充や、外部資金の柔軟な活用の重要性が示されました。民間の外部資金を取り込みながら官民協働による政策を打ち出していくことは、限られた資源での政策効果の最大化や、研究成果の社会・産業への円滑な展開につながります。また、官民協働を進めていく上で、民間資金のみならず、民間のサービスや施設、情報、ネットワーク等のあらゆる民間の資源・活力と連携していく視点も重要です。
こうした官民協働の取組の具体化を図るため、「官民協働による新しい科学技術手法」をテーマに、省改革の一環として、文部科学省の有志の若手職員が、それぞれの所属や所掌を超えて自由な発想のもと、課題や今後の取組を検討し、官民協働の政策を提案しました。今回の取組を進めるに当たっては、本年3月から、研究者や起業家、企業経営者など現場の最前線で活躍する有識者との政策対話を全7回にわたり開催し、指摘された課題等を踏まえ、今すぐ着手すべき具体的な取組に加え、中長期的な課題について、今後の取組の方向性を検討しました(図1)。

政策対話で指摘された課題
科学技術政策を企画・立案する際に、大学等の研究者や民間企業、その他産学官の関係者のニーズを的確に把握し、政策に反映していくことは当然のことながら極めて重要です。特に、イノベーションの実現においては、不確定性の高い状況において、誰も成功していないことに挑戦するリスクを取る必要があることから、少し先を予測した上で幅広い意見を聞くことが重要であるとの認識のもと、およそ100名に及ぶ有識者から聞き取りを行った上で共通する指摘事項について政策対話形式で議論を実施しました。
その結果、政策対話において、有識者から主な課題として、次のような指摘が挙げられました。
◦官民連携による研究支援・研究環境整備
◦民間資金を獲得しながら(稼ぎながら)研究を進める研究者モデル
◦民間活力を利用した産学官連携
◦大学と地域の協働による地域社会変革

官民連携による研究支援・研究環境整備
今回の政策対話に参加した多くの研究者から、大学等の研究現場では教育や研究活動周辺の雑務が多いため、研究者が研究に専念できない問題が深刻化しているとの指摘がありました。国や大学等は、研究環境の改善に向けた取組を一層進めていくことが求められます。
また、研究環境の改善に向けては、民間企業においても取組が活発化しつつあります。近年、研究者の研究環境を改善すべく、ベンチャー企業を中心に、研究機器のシェアリングや研究機器の購入支援システムなど、最新のICT技術を活用して、研究者のニーズに応じたきめ細やかな研究支援サービスを提供する民間事業者も増えつつあります。大学等は、研究環境の改善策の一つとして、このような民間の研究支援サービスをうまく活用することも重要です。しかし、これらの民間事業者の多くはベンチャー企業であることから、知名度が低く実績も少ないと同時に、大学側も活用経験が不足しているため、民間事業者が大学にアクセスするハードルが高いなど、いくつかの課題も指摘されています。国等は、官民連携により研究環境を改善していくためにも、制度改善に向けた検討も含め、研究支援サービスを円滑に研究者に提供できる環境づくりを進めていくことが重要です。

民間資金を獲得しながら(稼ぎながら)研究を進める研究者モデル
研究者が研究成果を活用して起業や事業化することで、民間資金を獲得しながら(稼ぎながら)研究を進めるモデルは、海外ではごく一般的であり、近年、国内の大学等においても徐々に浸透しつつあります。このようなモデルは、国費以外の研究資金を確保する観点や、産業や社会のニーズに柔軟かつ機動的に対応しながら研究を進められる観点から有効です。また、民間資金を活用することで、市場のスピード感や自由度をもって研究や概念実証を進められることも可能となります。
しかし、研究現場では、「研究者は儲けてはならない。研究に専念すべきである。」といった雰囲気が根強く残っており、研究成果の社会実装がしづらいとの指摘もあります。これは、研究者が論文を中心に評価される傾向にあり、産業貢献や社会貢献が適切に評価されていないことが背景にあると考えられます。このため、論文による評価のみならず、産業貢献や社会貢献などの研究者の活動も適切に評価されるよう、多様な評価軸を確保し、研究者が積極的に民間資金を獲得しながら研究を進めることのできる雰囲気を現場に醸成してくことが求められます。
近年、大企業やデベロッパーが、研究成果の事業化やネットワーク形成の支援、オープンイノベーション機能等が充実している拠点を整備する動きが活発化しています。こうした民間拠点には、多くの起業家や研究者、技術者たちが集い、ネットワークをつくりながら日々スタートアップに挑戦しています。そのため、起業等により民間資金を獲得しながら研究を進める研究者の育成には、こうした民間拠点の活用も有効な手段であると考えられます。

民間活力を利用した産学官連携
大学等の研究機関における産学官連携を担う人材には、産業界との幅広いネットワークや、技術移転に関する専門的な知見とノウハウを必要とします。しかし、このような人材が組織内で一般的な事務職員の人事ローテーションとして異動する場合、ネットワークやノウハウが蓄積されにくいという課題があります。そのため、大学等においては、産学官連携を担う人材を組織的かつ戦略的に育成していくことが重要です。
また、従来のTLO(技術移転機関)やVC(ベンチャーキャピタル)のほかに、研究周辺の産学官連携を支援するサービスを提供する民間事業者(共同研究支援、産業界への研究情報提供サービス等)も近年増えつつあることから、大学等がこのような外部の民間事業者を活用していくことも重要な視点の一つであると考えられます。
広報活動も産学連携を推進し、国民の研究に対する理解を醸成していく上で重要な取組です。公的研究機関において、民間事業者と連携し、多くの顧客基盤を有する商品やサービスとコラボレーションすることで、効果的に広報活動を展開する好事例はあります。しかし、広報人材も前述の産学連携人材と同様に、一般的な事務職員の人事ローテーションとして異動する場合が多く、民間事業者とのネットワークや広報に関する知見が蓄積されないとの指摘もあります。したがって、広報人材に関しても、組織的かつ戦略的に専門人材を育成あるいは確保していく必要があります。
また、科学研究費助成事業(科研費)や国のプロジェクトでは採択されにくい研究でも、社会や産業にとっては大きな価値をもつ可能性があります。近年、そうした研究に対して、例えばクラウドファンディングなど、民間資金により研究支援を行う仕組みが誕生しています。国や大学は、研究と社会・産業のブリッジを進めていくためにも、研究と民間資金をマッチングする取組を進めていくことが重要です。

大学と地域の協働による地域社会変革
大学の研究を社会・産業にブリッジする重要な手段の一つとして、大学発ベンチャーを起業することが挙げられます。都心における大学発ベンチャーエコシステムは、一定程度進展しつつありますが、地方では起業に必要な人材や資金、経験、情報、起業支援機能等が不足していることから、起業するハードルが極めて高く、また、身近に起業家のロールモデルが少ないことから、起業するきっかけづくりが難しいという課題があります。
これに対して、大手ファンドが地方大学発ベンチャーの立ち上げを支援したり、地方銀行が地方大学発ベンチャー向けのファンドを設立したりする動きが近年あります。地方大学での起業を増やしていくためにも、国や大学は、このような民間事業者と連携しながら、アントレプレナーシップ教育や、事業化に向けた研究・技術実証支援、起業アドバイス、そして各大学が起業に関する成功事例と失敗事例を共有する場づくりなど、総合的な取組を強化していくことが必要です。
また、課題先進国である日本では、特に地方において社会課題解決型のソーシャルビジネスやプロジェクトの実証の場が充実しており、現場での実証試験などを提示しやすい環境にあります。そのため、地方大学は、地域の人材や技術、知見、ネットワークを活用しながら、このような社会課題解決型の実証試験を行うことで、地域社会の課題解決の取組に貢献できる可能性が大いにあります。加えて、近年、世界的にESG投資が大きく伸びていることから、地方大学と地域が協働して民間資金も活用しながら社会課題解決型のビジネスやプロジェクトを進めていく取組を強化していくことが期待されます。
そのほか、政策対話において、産業構造の変化や産業ニーズの多様化・複雑化に柔軟かつ迅速に対応していくため、地域の産業界と大学の連携による教育プログラムの作成・実践や、地域社会や産業界を実証の場として研究を進める実践型教育(PBL型教育)の充実を図っていくべきとの指摘がありました。

若手提案による今後の取組
政策対話における有識者からの指摘等を踏まえ、中長期的な視点にも立ちながら、若手職員から今後の取組として、次のような取組の検討・提案がなされました。その際、民間の資金やサービス、施設、情報、ネットワーク、地域資源等のあらゆる民間の資源・活力と連携しながら、官民協働で取組を進めていく視点を重視しました(図2)。ここでは、そのうち若手職員から提案された主要な四つのプロジェクトを中心に御紹介します。
◦研究支援サービス・パートナーシップ(認定)制度(仮称)
◦官民連携によるテクノプレナー育成拠点(仮称)
◦みんなの研究費(仮称)(民間からの研究費の獲得拡大に向けた取組)
◦大学と地域の協働によるイノベーションを起爆剤とした地域社会変革

研究支援サービス・パートナーシップ(認定)制度(仮称)
大学等の研究者が民間事業者の提供する研究支援サービスや産学官連携支援サービスを活用できるようにするためには、民間事業者が大学等にアクセスしやすい環境を整備し、サービスを円滑に提供できるようにすることが重要です。
そのため、民間事業者が実施する優れた研究支援のサービス等を認定する制度を創設し、サービスの利活用を奨励・促進します(「研究支援サービス・パートナーシップ(認定)制度(仮称)」)。将来的には、認定された研究支援サービス・産学官連携サービスと文部科学省事業との連携を検討していきます。本プロジェクトは、本年秋以降に認定先の民間事業者の公募を開始し、認定を目指します。

官民連携によるテクノプレナー育成拠点(仮称)
研究者が、研究成果を活用して起業や事業化をすることで、社会に新たな価値を提供しながら民間資金を獲得して研究を進めていく研究者「テクノプレナー(テクノロジスト×アントレプレナー)」の育成は、国費以外の研究資金を獲得する機会の拡大や、産業・社会のニーズに柔軟かつ機動的に対応した研究の推進、また民間資金による高い自由度とスピードの確保の観点から重要です。
また、近年発展しつつある民間の研究・インキュベーション拠点には、オフキャンパスならではのスピーディで自由度の高い研究・技術実証支援や、異業種・異分野コミュニティとのネットワーキング支援、スタートアップ・事業化支援、オープンイノベーション機能が充実しているため、このような民間拠点はテクノプレナーの育成に最適な環境です。
こうした民間拠点も活用して、研究者が研究成果をいかして起業・事業化等により社会に新たな価値を提供できるテクノプレナーのフラッグシップモデルを育成します(「官民連携によるテクノプレナー育成拠点(仮称)」)。各拠点でテクノプレナーを育成することで、将来、その研究者が若手研究者のロールモデルやメンターとなり、また新たなテクノプレナーを育成していくというエコシステムの形成を目指します。また、先進的なテクノプレナーのモデルとなる人材を表彰することで、研究者の多様なモデルの一つとしてテクノプレナーの認知度を向上させていく仕組みも検討していきます。本プロジェクトは、来年度に民間拠点を公募で指定し、取組を開始する予定です。

みんなの研究費(仮称)(民間からの研究費の獲得拡大に向けた取組)
科学研究費助成事業(科研費)等のアカデミアの視点や国のプロジェクトなどの政策的視点では採択されにくい研究でも、社会や産業の視点では大きな価値を有する可能性があります。そのような研究と民間資金とのマッチングの機会を拡大していくことは、研究の推進はもとより、研究成果を社会や産業に展開していく観点から重要です。
現在、研究と民間資金とのマッチングの仕組みとして、財団法人等による助成や金融機関等による投融資がありますが、それらは主として研究者と各機関との一対一のマッチング(点と点とのマッチング)であるため、研究者は各機関への申請手続や訪問で多大な労力を要し、これが研究時間の圧迫につながるおそれもあります。特に地方大学の研究者にとっては、助成機関が都市部に集中しているため、大きな負担となるおそれがあります。
そのため、研究者と民間事業者・投資家・国民とのマッチングの場(ピッチイベント等)を提供し、研究者が多くの企業等に対して情報発信できる仕組み(クラウドファンディングの活用等)を構築することで、研究者側から情報を発信する研究者発信型の新たな資金獲得システムを形成し、研究者を面的に複数の民間企業等とつなぎ、民間資金の獲得の機会を拡大させていきます(「みんなの研究費(仮称)」)。これにより、産学官のあらゆるセクター、そして国民みんなで研究を応援していく雰囲気の醸成を目指します。本プロジェクトは、これから事業の会員となる民間企業や投資家の募集を開始し、会員企業のニーズを踏まえたマッチングスキームを順次検討していく予定です。

大学と地域の協働によるイノベーションを起爆剤とした地域社会変革
①官民シェアリングプラットフォーム(仮称)
地方大学では、研究成果の事業化経験が少なく、都市部に集中するVCやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)等との接点も限られます。現状、地方大学発のシーズを社会実装するに当たっては、その成功確率を高めるため、国が個々のプロジェクト単位で外部有識者をそれぞれの地域に派遣し、事業化に向けたアドバイスを行うことで対応しています。
しかし、こうした「点」による支援では、政策効果が限定的となり、各地方大学が孤軍奮闘する状況になるので、「面」による全体の底上げを図ることが必要です。具体的には、政府系金融機関等と連携して、地方大学が持つコア技術を事業化し、地域の成長、さらにはグローバル市場への展開につなげ、その成功事例や失敗事例(事業化や起業ノウハウ等)を共有する場を構築します(「官民シェアリングプラットフォーム(仮称)」)。面的に情報共有する場をつくることで、共有された事例を題材として地域が事業化に向けて抱える共通課題の解決策を議論・検証できるとともに、必要なアントレプレナーシップに関する教育プログラムも提供することができます。将来的には、他府省が持つ出口思考のネットワーク等とも連携しながら拡張していくことを模索しています。なお、本プロジェクトは来年度に開始すべく、事業の具体化を進めています。

②地域社会プロジェクト投資活性化スキーム(仮称)
地方公共団体が抱える固有の社会課題を、地域内外の大学等が有するテクノロジーを活用して解決し、新たな価値創造により社会を変革していくことを目指すため、ニーズプル型の課題解決志向のプロジェクトをデザイン・実行・検証し、熱意と意欲を持った年齢層も含めて多様なステークホルダーで構成される地域コミュニティ(ABC(Actor Based Community))の活動を支援します。これにより、地域の産学官の多様な人材が、協働して地域課題を自律的・継続的に解決し、また新たな価値創造を目指す活動が喚起されることで、新しいソーシャルビジネスへの拡大につながることが期待されます。
こうした取組を持続可能な形にしていくためには、最終的に民間投資も活用して事業化していくことが重要となります。このため、地域の大学等の技術や知見を活用したプロジェクトを専門家等で評価・認定し、金融機関等の民間投資(ESG投資)とのマッチングスキームを構築し(「地域社会プロジェクト投資活性化スキーム(仮称)」)、社会課題解決型のソーシャルビジネスやその担い手となるソーシャルイノベータの育成を支援します。本プロジェクトは、実施に向けて今年度中に調査検討を行う予定です。

その他の取組
若手職員から提案された前述の四つのプロジェクトのほかにも、次のような中長期的な取組の方向性が提案されました。
◦研究者が果敢に多くの挑戦や失敗ができる環境づくり(挑戦しないことよりも、リスクを恐れずに挑戦することが大いに評価される雰囲気づくり)
◦国のプロジェクトにおける積極的なスモールスタート/ステージゲート方式の導入
◦国のプロジェクトに係る研究で生じる事務処理手続の簡素化・合理化
◦産業貢献や社会貢献などの研究者の活動を適切に評価する「多様な評価軸」の確保
◦研究機関における産学連携と広報人材の組織的かつ戦略的な育成・確保、及び広報活動における好事例の面的な情報共有
◦社会ニーズに対応する政策実現に向けた、様々なステークホルダーとの政策対話の継続的な実施
◦民間企業の現場感を肌で感じ、今後の官民協働の取組にいかすための人事交流(行政官のベンチャー企業への派遣等)

更なる官民協働の取組を進めていくために
今回、報告書において提案した取組については、本年7月末に、柴山文部科学大臣(当時)、永岡文部科学副大臣(当時)、白須賀文部科学大臣政務官(当時)との意見交換会を開催し、主な取組について有志の若手職員から発表した上で意見交換を行いました(図3)。
今後は、前述の主要な四つのプロジェクトを中心に、報告書に示した取組を進め、さらなる官民協働の取組を促進していきます。官民協働の取組は、単に出口領域の研究に焦点を当てているのではありません。研究成果を社会実装して民間資金を獲得したり、民間事業者と連携して研究周辺にかかる費用を削減したりすることは、研究に活用できる資金を増やすことにつながり、研究開発の推進を加速させます。そういった大きなエコシステムを形成していくためにも、報告書に示した取組をできるものから一つずつ着実に取り組むとともに、中長期的な取組の方向性の提案がなされた諸課題についても、引き続き検討し、具体化を進めていきます。

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